小品集「Mello」第3話
「Lovers Rhapsody」
「どちらが先にキラに辿り着くか…」 「競争ですね」 あの日、SPKのアジトで2人が交わした会話を ニアは思い返している。 硬い床、モニターが微かにうなる音 一挙即発の状況で緊張が空間を支配し細胞の全てが鋭敏になる、 メロの私への凄まじいライバル心が空気をも震撼させ 私の随となる部分にまで響く…… 戦慄にも似た高揚感が身体中を駆けめぐり、 あの時、私は生まれ、生きている充実感を初めて実感し 口端がゆるみ微笑んでしまうのを押さえられなかった… 『我ながらハードボイルドだったですね……。』 それが今では… 柔らかいベッドに身をゆだね 生死をかけ競い合った相手と躰をつなげている…… ニアは上からのぞきこむザンバラな金髪の青年を見上げた。 端正な顔の左側は大きな傷跡におおわれ痛々しいが その激しさと精悍さを強く印象づけている。 その肩にはニアの片足がかけられ、 お互いの裸の胴体は下腹部で結びついていた。 「ん……ふ…」 ニアは低く声を漏らした、彼の下半身はこの青年、メロの逞しい杭を深く打ち込まれ、 圧倒的な存在感に張り裂けそうな感触と すでに登ってきた快感をさらに爆発させたくてウズウズとしている。 「どちらが先に昇天しないか……」 「……競争ですね……」 かって、世界一を賭けて戦った世紀の好敵手と ベッドの上で痴話試合を繰り広げる現在にニアは少し眩暈がした。 『平和も考えものですかねえ……。』 キラ事件が解決し、二人っきりで再会した時、 決着をつけようとメロが宣戦布告をしかけてきた時、 ニアも望む処と受けてたったのだが なにがどうなってこうなったのか…… 気がついたら肉弾戦に突入し汗まみれでお互いの名を吠えるかの ごとく叫びあっていたな… 結局引き分けにもつれこみ、その後も何度も二人だけで秘密の タイトルマッチを繰り返している… 呼び出されたホテルの窓からはクリスマスの能天気な喧噪が漏れ聞こえている… 『馬鹿騒ぎですね…』 ニアはシニカルに冷笑したが、メロと自分程の馬鹿もいないだろうと思い至り 嘆息をつくしかなかった。 そんなニアの隙をメロは見逃さなかった! 両手でつかんでいたニアの腰をいったん撫でまわしたかと思うと 一転して鷲掴みにし、小刻みに腰を動かしだす。 「……ぁ!!!」 その緩急をつけた振動は、とてもニア好みで思わず声をあげてしまう。 『メロ……さっきは一本調子な攻め方だったのに…いつの間にこんな 洗練された技を覚えたのか…あなどれ…ま…せ… 1敗してるから必死ですね…でも…私だってまけな…』 ニアは強がってはいるものの体は熱く上気し、痙攣のごとく震え、 今回は完全にメロのペースに巻き込まれリードを許し、翻弄され、 すでに快感の渦に飲み込まれかけている。 「イイみたいだなニア…」 声を出すのはこらえてるものの体のすみずみでの反応は隠しきれないようだ メロは汗をしたたらせながら、少し意地悪く勝ち誇ったように笑う。 ニアは悔しがった…彼も人並み以上に負けず嫌いなのだ… だが……ニアの理性とは裏腹に体の中心は若々しくも直角にそそりたち、 すでに透明な雫をこぼしかけている。 漏らすものかと歯をくいしばると替わりに涙がにじむ… 泣くほどイイのかよとメロにひやかされぬよう身をよじり、潤んだ瞳を隠そうとした しかし、その動作でメロのものが更に奥深く突き刺さってしまい たまらず声をあげるはめになってしまった! 「ぁあああぁ…ハア…あん…あはぁ……」 自分とは思えないほど甘い鼻にかかった声! ニアは敗北感と羞恥で意識が飛びそうなったが、 この悦楽の喘ぎはメロにも相当のボディブローを与えたようだ メロの脳髄と男の核はニアの嬌声に強烈な興奮を覚え、 爆発寸前に追いつめた! メロは唸り声をあげ、息と体の動き止め発射を寸前で押しとどめる。 しかしニア同様、先走りは避けられなかった… ニアの体の中で粘液がすれて淫らな音をたてる… これで互角だ… ニアも形勢が並んだ事に気づき、汗でへばりついた銀色の前髪の隙間から 目を細める…、メロはその生意気な瞳に怒りと焦りを感じた そしてこれが最後と云わんばかりに 勃ちあがったニアの物をにぎり、絶妙な力加減でこすりあげ、 腰のほうも律動を再開する。 疲れを知らないメロの執拗な表と裏からの刺激に、 さすがの負けず嫌いのニアも限界に追い詰められた! 「ああああ……ああ…んんん!!!!!!」 もはや声を抑える事は不可能で思いっきりさえずり、 頭は朦朧としているのに体はさらに快楽を求め、自ら腰を使い始める… この気持ちの良さに思いっきり浸ってみたい… ニアは勝負など投げ出して、メロにすがりつきたくなった。 思う存分泣き、叫び、よがり裸の胸に顔をうずめて眠る夢想をした。 それはどんなに甘美な悦びだろう? 馬鹿げている、私とメロの間にそんな甘い感情などあるわけないのに… 「おら、降参って言えよ、いいって言えよ!」 「いや…いやです…感じてなんかいませ…あ…あなたになん…」 「可愛くねーな、お前は昔から!」 「大きなお世話で…す。」 メロは子供のころから自分に敵愾心を抱いている… 自分とメロを繋げているのは競争意識だけだ… もし自分がメロに敗北を認めたら、 彼は敗者の私には目もくれず新しい強敵を探すだろう… それがニアには、なぜか怖かった… だから…決して負けるわけにはいかないのだ! その思いが流されそうになる身体をなんとか押しとどめ 歯をくいしばりメロの渾身の突き上げにも音をあげず、 反撃に思いっきり締め付けた! その力点が偶然メロの秘密の壺をついたようだ。 「うぐ…!!!」 思わずうなるメロ… 今度は彼が極限の淵に立たされた、 メロの汗は冷や汗に変わり力は抜け… 肩に担いだニアの脚も手放しニアの上に崩れ落ちるように覆いかぶさる… 「勝った…」 勝利を確信したニアの耳元にメロの髪とくちびるが降ってきた…そして ささやく…… 「好きだ…ニア。」 それは魔法の言葉だった。 ニアの圧倒的な理性は一瞬のうちに崩落した。 「あ、…!!!!!い、いやああ…!!!!」 ニアの欲望は堰を切り二人の体の間に白濁を飛ばし恥ずかしい程 いつまでも放出は続いた 羞恥と悦楽がマーブルのように渦巻きニアを飲み込み 津波から逃れるようにニアは目の前のメロに抱きつき、その名を泣き叫ぶ! そして自分の中にドクドクとメロの精が流れる感触を最後に ニアの意識は天国に堕ちたのだった。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「ノーカウントです!今のは認められません。」 身体の火照りはおさまったものの、 消えない頬の紅潮を白いシーツで隠し、ニアは叫んだ。 しかし、メロは余裕綽々で裸のまま寝そべり、曲げた肘に頭を乗せ 口にはチョコレートを齧りながらニアの様子を眺めている。 「負けたからって、ずるいぞニア。お前のほうが先に達したのは明らかだろ?」 ご機嫌な口調でメロはニアの要求をシャットアウトする。 「ずるいのは、そっちですよ!!」 ニアは怒り気味にシーツから顔を出し叫んだ、 口の端にこわばった感触を感じる… 先ほどの絶頂で思わず流した唾液の跡だとわかると一層の気恥ずかしさと悔しさが ニアを襲い、メロに批難をまくしたてる。 「卑怯です、あなたは勝つためなら反則もいとわないのですか!あんな事を言うなんて! ずるいです、反則です。」 「何がどう反則なんだよ?」 「…好き…なんて言ったじゃないですか…あんな嘘をつくから 私は驚いてしまい…思わず、制御ができなくなってしまって…」 ニアは語りながら、これも嘘だなと思考した 驚いたのは確かだが、何より私はあの言葉に感じてしまったのだ 全身全霊でエクスタシーに達したのだ…… 自分が情けなかった… ニアはまたしでもシーツで顔をかくす、 するとシーツ越しに、こうべを手のひらで包まれる感触がする… 「俺は嘘なんてついてないぞ!お前が好きだニア。」 耳元で囁くのはメロの声だ。 ニアはメロの真剣な口調に驚き、顔をだした。 「嘘…ずっと私を倒す!と、ばかり言っていたじゃないですか……! そ、それが…好き…だなんて…。」 [好き]…なんて甘美な言葉だろう… 嘘でもなんでもいい気がしてきた、だってメロが私に語ってくれる言葉なのだから… 私…私はメロが好きなのか…? ああ、好きなんだ…心も躰も命も未来も全てをかけて……!! 人の心理を洞察するのが探偵の仕事なのに…自分の気持ちには何年も気づけなかった… ニアはメロの目を見る…黒く深いそのまなざしの奥の真意を覗くように… しかし、その眼はいきなりニアの目前まで迫り、視界はぼやけ 口の中にあたたかい異物を感じる… メロの舌だった。 私たちは深い深いキスを交わしている…まるで恋人同士みたいに優しいキスだ。 ニアは口づけに陶酔し、メロの首に腕を絡め息が上がるまで舌を絡めた、 酸欠寸前にようやく顔を離したメロは次の瞬間にはニアを自分の胸に 押し付け思いっきり抱きしめる… ニアは本当に窒息しそうだった。 「嫌いだったら…こんなに長い間…馬鹿みたいに追わない、 好きじゃなければ抱いたりしない…。」 メロが乱暴につぶやく… ニアは自分は先ほどの勝負に負け、本物の天国にいるのか?と疑った メロが腕の力を強めたので現実なのだとわかる… 長い時間、押し込められた想いが溢れ、同じように言葉が溢れる… 「私…私もメロが好きです、大好きです!」 メロはあまりにストレートな返答にとまどって目を見開く 「ニア…なんだ…急にそ、そんな、素直に…!ニアのくせに!…」 「メロこそ…今夜は変な位、素直ですよ……でも、そんなメロも好きです。」 我ながらくすぐったいセリフだとニアは思ったが メロはこの上なくうれしそうな表情を浮かべ優しいキスで返してくれた、 粉雪のように軽く頬や額に降ってくる そしてそれは身体中に広がっていく…。 「いいか?」 「はい」 今度は勝負ではなく恋人として体を結ぶ… 意地っ張りな二人が初めて存分に求め与える聖夜を迎えた……。 翌朝、メロはすごぶる機嫌が悪かった 夕べの自分の恥ずかしい告白や甘いセリフを思い出し 耐えられないのだとニアは察した。 なぜなら、ニアも似たようなもので朝の日ざしでメロの裸を見ただけで 叫んでしまったし、それと繋がった自分を回想すると顔があげられない… 普段以上に身支度にとまどり、溜息をこぼす…。 「早くしろ!置いて行くぞ!!」 メロがいらついて怒鳴る。 甘い夜はどこへやらの以前のままの粗雑な態度だ、 だが、いつもは無言で部屋を出ていくメロが怒りながらもニアを待っている… やはり夕べから二人は恋人になったのだな…とニアは実感し そして、うれしくなりパジャマのボタンをはめる指が少し早くなるのだった。 メロは駐車場からバイクを出し、ニアにヘルメットを押しつける、 バイクなぞニアは初めてだったが、メットで顔を隠し お互いの顔を見ずに済む二人乗りの態勢で気まずさから解放されるのは ありがたいので、大人しくメロにしたがう。 「しっかりつかまってろよ!」 メロは振り向かずに言い放ちバイクを発進させた。 初めての真下からのエンジン音と振動、そして車の間を縫う走行に ニアはとまどい憔悴した、 しかし、10ブロックを過ぎる頃には徐々に慣れ 街全体に広がる色とりどりのツリーや流れるクリスマスソングに 気付く余裕ができてきた。 その華やかさと人々の幸せを願う響きは、いささか偏屈なニアも高揚させる… 街や人々の心に幸せと希望が満ちる12月… 昨夜、二人があんなに素直になれたのも一足早いサンタクロースの贈り物かも しれない… ニアはメロの体に回している腕をいっそうギュッツと抱きしめた 背中ごしだがニアにはメロが赤くなっているのがわかる… そして照れ隠しに乱暴な運転をするに違いない、 振り落とされてなるものか、負けませんよメロ! ニアはさらにメロにしがみつき、二人のバイクは12月のさんざめく街並みを まっすぐに遥かを目指して駆け抜けるのだった。 END |