小品集「Mello」第1話

「Memory」


「初めてあった日の事、覚えていますか?メロ」

「そりゃあ、覚えてるよ、力抜けって言ってるのに
お前は余計締め付けてきて、俺も痛いし抜けないしで大変だったなあ
このまま病院送りになるなら死んだほうがマシと焦って…」

俺の語りは中途でさえぎられ、視界は白い布で覆われたかと思うと
柔軟性のある衝撃が頭部に走り、続きの言葉は羽根と一緒に部屋中に飛び散った。

「なんの話をしてるんですか!!メロ!」
素肌に白いパジャマの上着を羽織っただけのニアが
シーツの上から中腰で睨みつけている。

「そっちこそなんだニア!お前が初めてヤった時の事を聞いてきたんだぞ!」
俺はぶつけられた枕をお返しになげつけた!

「やったじゃないですよ!!!あった時ですよ!初めて会った時の事を
聞いてるのです!!!」
ニアは俺の代わりにポカポカと枕を叩いている、
羽根まくらからこぼれた羽毛が部屋中に舞い落ちる。

「なんだそうか、まぎらわしい事言うなよ。」
「どこが、まぎらわしいんですか!!まったく、頭の中がソレばっかりだから
変な聞き違いをするんですよ!……3回もしたばかりだっていうのに…
あなたはまだ…。」

うるさいので腕をひっつかみ、強引に口づけてだまらせる
ニアがため息とともに俺の舌を飲み込む隙に
身体を反転させシーツの海に押さえこんだ。

唇を少しずつあごから滑らかな白い首筋にずらしていく

「メロ…だめですよ……普段は3度までって約束でしょう?……あ……ん」
こいつの「ダメ」は「もっと…」と同義語にしか聞こえない
甘い旋律をはらみ官能を奥底から刺激し
みるみるうちに俺の拳銃を奮いたたせた、またしても!

俺はそれをニアの身体に擦りつけ存在を主張してやる

「今日は普通の日と違うだろ?」

時計は12時を回っている、今夜は12月13日
俺の誕生日だ。

「今夜は特別にプレゼントをもらわないとな…」
「もう……そればっかり…なんですから…」

肉体の刺激と求められる快感にニアのミルク色の肌はすでに薄桃に上気し
内気味に閉じられていた脚はゆるやかに開かれ俺の下半身をすべりこませる…

こうなれば、先ほどの痴話げんかはどこへやらで
いつものように激しく奪い合い求め合い与えあう

「ハウ…ん…ん…いい…いいです…メロ…。」

俺に貫かれたニアは
どの口で断ったんだ?といいたくなる位、嬌声をあげ
感じまくり身をよじり俺を締め付ける…
俺はその力に負けるかと腰の動きを強める、

競い合うかのように激しく甘美な夜の底でむつみあうのだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「メロ、ほらあの子が新入りだぜ!」
横でマットが煙草をくわえながら、はずんだ声で俺の耳元で囁く
顔をあげると数メートル先に銀色の髪と白い服が飛び込んでくる

それがニアと俺との初めての瞬間だ。

マットと俺がもたれている窓から夏の日射しが差し込み
ニアのいる場所の寸前まで光りを届け、それがかえって奥の暗がりを強調していた
ニアはその光りと琥珀の闇のはざまの水場で手を洗っている。

こばれた水滴とほつれ毛が時折、陽光に反射してまぶしく光る…

「なあ、ハウスの女子で一番可愛くないか?
いつも、うつむきかげんで、はにかみ屋さんみたい……
やべ…どうしよう、この胸のトキメキ…俺、初恋かもよメロ!?」

俺はマットの13回目の初恋と頭が不憫でならなかった

なぜなら、そこは男子トイレだったからだ。

俺たちのささやきに気づいたのかニアは蛇口を止めこちらに目を向ける。

無愛想だが…確かに可愛いな…俺もボンヤリと思ったっけ。

「ハーイ、俺、マット。 あ、もちろんこれは秘密にしてね!」
マットは煙草を振って、おどけてみせたがニアは興味なさげに視線を
よそに移した。
どうやらタオルを捜しているらしかったが、無いとわかるとおもむろに
上着で手をふきはじめる、

天使のような容貌と、そのだらしない所作があまりにそぐわないので
俺は思わずポケットからハンカチをとりだしながら彼に歩みよった、

言葉より手が早いのは昔からだった俺は
ニアの手をハンカチで包みこみゴシゴシとぬぐいながら
「これ使えよ!」
そうつぶやく。

「お前がどこから来たか知らないけど、英国紳士といえば
ハンケチは必需品だからな」

小さな手はふっくらとして布ごしでもやわらかさを伝えていた。
ニアはあっけにとられたように、しばらくされるがままに
ぼんやりとしていたが、俺が拭き終わり手を離すと
大きな黒い目を少し丸くし…

「どうもありがとうございます。」
小さく礼を言った。
薄荷でも食べた後だったのだろうか、爽やかなミントの香りがしたのを
覚えている。

初めての日の印象はそれくらいだ…

その後、紳士という言葉でやっと真実に気がついたマットの嘆きのほうが
ずっとウザくて印象的だった。
まさかそのニアと数年後、ベッドを共にする関係になるなんて思いもよらなかったな…

隣で毛布に丸まって、まだ少し頬を赤らめ快感の余韻を
噛みしめているニアを見つめた。

それにしてもなんで急に昔の事なんか…?
と、あの日の蝉の声がよみがえる…夏の終わりだったな…
ん…もしかして?

「ニア、初めてあったのって、ひょっとしてお前の誕生日か?」

「覚えていてくれたのですねハンカチの事!」
ニアは跳ね起き、うれしそうに擦り寄ってきた。
あの日と同じように黒い瞳が丸く動く…

「あの時は……プレゼントをもらったような気分でした。」
「大げさだな、下級生の世話くらいしろってロジャーにも言われてたし…
別にたいした事じゃねーよ」
つい癖で憎まれ口を叩いてしまうが、ニアの気持ちは実は俺も
わかる気がした…

次期Lを目指すために集められたワイミーズハウスの少年少女は
自分の知力と能力に強い誇りを持ち高い精神年齢を自負して虚勢を張っているものの
身体的にはまだ小さな子供だった、まだ親や保護者のぬくもりが恋しくて
当然なのだ。
ハンカチ越しでもニアには俺のぬくもりを感じたのかもしれないな……

だが…俺はその手を一方的な競争心から振り払った事もある…
なのに…ニアは俺を憎む事はなく追いかけてきて…

そして、再び2人の手はつながれ、素肌を重ね合う日々が来た
小さな俺の贈り物が数倍になって還ってきた。

俺はニアを思わず抱きしめる、思いっきり強く…
ニアも俺を抱きしめ返す…

「生まれてきてくれてありがとうございます」
それは俺のセリフだと思ったが…今日は俺が言われる側だな。

「お誕生日おめでとうございますメロ。」

柔らかな肌、柔らかな言葉…生きている喜びが胸を熱くする
可愛い…愛しい… この世の全ての美しい言葉を降り注いでも足りない

ニア…愛してる…という代わりに、またパジャマの上着を脱がせる

「ちょ、ちょっとメロ!まさか…まだ…あ…!…ん」
「誕生日だし、ロウソクの数やるってどうだ?」
「バカ…それこそ病院送りに…」
ニアはめずらしく声をたてて笑う、

身をかわすニア、追いかける俺、2人ベッドを転げ回りじゃれあう。

「初めてやった日の事、覚えているか?」
「覚えてますよ……メロの誕生日でした。あれからずっと…2人一緒ですね」

「来年も、その次ぎもな」
「そのまた次ぎも、死が2人を分かつまで。」

やっと押さえ込んだニアはまっすぐに俺を見つめ俺も見つめかえす。
瞳に映る俺の目の中にニアが映りどこまでも果てしなく繋がる

これを永遠と言うのだろう。

「蝋燭分のキスならいいですよ」
ニアは俺の金髪をいじりながら首に手を回し顔を引き寄せた

いつもキスじゃ足りないっていいだすくせに…
火がついても知らないぞ!

「じゃあまず1回…」
記念日にふさわしく少し、かしこまり唇を落とす…

遠い記憶の底で手をつないだ幼い俺たちがファンファーレを鳴らし
良かったねと微笑んでいる…ふと、そんな幻影がよぎった。


二人の夜とバースデーは、これから更に甘く深まっていくのだった。



END


*昔の小説や児童文学で「ハンカチ」を「ハンケチ」と表記していたのが味わい深くて
好きでしたので、メロの回想のセリフのみ「ハンケチ」にしています。