「Birth Day」



「メロのばか!!」
ニアが枕を思いっきりぶつけてくるから、
俺は猛烈に腹がたち蹴飛ばしてやる!
白いパジャマを上着だけはおった小さな体が白いシーツとともに
床にもんどりうつ。
その隙に俺は引き出しから配線の修繕に買った黒いビニール
テープを取り出し、ベッドマットを2分割して張り付けた。

「右側は俺の陣地だからな!こっちはみ出したら殺すぞ!」
「メロ!あなた、小学生ですか!!!」

真夜中にまたしても大ゲンカだ。
事の起こりは俺が数日ぶりの夜の営み中に
眠ってしまった事が原因だった…。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「信じられません!起きてくださいよ!!!」
いい気持ちで寝ていたのに体の下からのつんざく声に起こされた。
「うるせーなあ…」
繋がったまま萎えてしまった俺をゆるゆると抜き取り体を離す。
「もう最低です!行為の最中に寝るなんてパートナーを侮辱しています、
これはもう性的・精神的虐待ですよ、もうもう!」
ニアの白くて柔らかい肌があんまり気持ちがいいから眠たくなったのに…
こいつには疲れたパートナーをいたわりたいとか、癒したいとかの
気持ちがないんだろうか?

「大体、一週間もしてくれないし…健康な年頃の男性が考えられませんよ、
私の事を軽んじている証拠です。」
「まてよ、確かに一週間やってないけど、4日前誘ったのに断ったのはニアだぞ!
新しいレゴがきたから忙しいって肘鉄食らわしたくせに!」

ニアはそういえばそうだったという顔をしたくせに減らず口は止まる事をしらない、

「暴力なんてふるってませんよ、人聞きの悪い。
大体、1回位断った位であきらめるなんて情熱がありませんよ。
私が恥ずかしさでためらったけど
もっと誘って欲しかったかもしれないと、なぜあなたは考えないのですか?」
「お前が、んな、殊勝なわけないだろが!!!」

それからはお互い口やら手やら足やら出まくりだった。
結局その日は背むけたまま寝る事になった。
まったくもう、2人で暮らしだした日々よりケンカの回数のほうが多いんじゃないだろうか
事にここ最近は酷い…

理由はわかっているのだが…

今は考えたくなくて、枕に顔を埋め眠りに落ちた…俺は疲れてるんだ……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「おい、ニア起きろよ、今日は仕事なんだろう!」
毛布をひっぺがし、強引におこす。
ニアはまだ昨夜の事を怒ってるのか、欲求が解消できなかったので苛立っているのか
機嫌悪そうに、支度をした。
俺はお手製のスープをよそって、差し向かいにテーブルについた。
ニアがまだ無言なので無視して新聞をめくりながら、スープをすする
我ながら旨い。
しかし、ニアの奴ときたら…
「今の時期にかぶなんて…旬を過ぎてますね…。それに水はバイカル湖の水がいいと
言ってたのに…塩もスーパーで買ったでしょう?私はパハール岩塩をミルで引いた
ものが好きなのに…」
ニアは一見、霞みを喰って生きているような風体だし小食ではあるのだが
素材には敏感でえり好みが激しかったりする、
自分でつくるのならいいが、人に作らせておいて何様だ!
「うるせえ!贅沢いうな!」
「いいんですよ贅沢しても、私には資産がありますし仕事もしてますから…
あなたと違って…。」
言いたいことはそれか!俺はおたまで、この白っこいチビをブン殴ろうとたちあがると
インターホンが鳴った。
「ニア、私だレスターだ。」
お出迎えらしい。

ドアを開けてやると大男が笑みをたたえている、
「なんだ、君か、おはよう…」
俺だとわかると途端に表情をこわばらせた、
「あいつならまだ支度してる、のろいから。」
「そうか…待たせてもらおう…」
レスターはでかい図体で俺を見おろし、それだけで威圧感がありうっとうしい
どうせならハルとかいう美人がお迎えなら良かったのに…

こいつらは政府の特別機関の一員らしい、
何か難題があると駆り出され、フリーのニアに知恵を借りに来るようだ。

「君……へそが出ておるぞ。」
レスターが憮然としてつぶやく
「出してるんだよ。」
俺が答えると理解できないという顔をした、センスのないヤツめ。
非常ーーーに間も空気も悪い中、やっとニアが玄関までノソノソ歩いてきた。
「おお、!今日はジーンズをはいているんだね、ニアも成長したなあ。」
とレスターが顔をほころばせる、
いくらなんでも態度が違いすぎるだろう!
わかってる、
コイツはニアに気があるので同居している俺が気に入らないのだ。

凸凹コンビは玄関から去っていった。
ニアはわざと俺のほうを見なかった。
外出にパジャマを着ない位で褒めちぎるなんざレスターはニアを甘やかしすぎだ、
だからあいつがつけ上がるんだよ!
俺は居間に戻り食後のコーヒーを飲みつつチョコを囓りつつ新聞の続きを読む。

「求人欄」

……言いたかないが、2ヶ月前から俺は無職だった。
ニアに喰わせてもらってる状態なので、それがケンカの元でもあった。
レスターの冷たい目もその辺を察しっているのだろう。
ヤバイ仕事から足を洗ってカタギの仕事を探してるのだが
これが、なかなか上手くいかない。
連日面接やら試験雇用やらで色々な職場を渡り歩いて、
まあ、夜の生活がおろそかになる位、徒労感でいっぱいなわけだ。
新聞を放り出しソファに転がる、
カレンダーを見る…今日は8月17日だった。
「後、1週間か…。」
その時ポケットの携帯がなった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「俺はもうこの国を出るよ…。」

お気に入りのカフェが全面禁煙になっていたので
マットはふてくされて代わりにストローを囓っている。
ビールなのに…

「煙草を吸うだけで犯罪者扱いされたらたまんないよ。」
「いいけど、英国に帰っても、ここより嫌煙はヒステリックだぞ…
…それにお前まるで…
煙草吸わなかったら、カタギみたいな言い草だな?」
俺が笑うとマットは苦笑した。

「お前が呼び出したんだから、おごれよ。俺、今、金ないから。」
「株で大儲けしたって言ってなかったけ?メロ。」
「ああ、それを元出に買った株が大暴落しやがって
頭にきて博打に出てみたら、結局差し引き0になったな…」
自分でいうのもなんだが、俺は頭脳明晰なのだが、
一日部屋に籠もってデスクやPCに張り付いているのが性に合わない、
続けてるとなんかしらの爆発をおこしてしまうのだ。

「まあ、俺は山師っていうか、過激なタイプだから浮き沈みが激しいんだよな。」
俺は椅子の背にもたれかかり足を組み、アイスチョコレートのグラスを揺らしつぶやく。
オープンテラスには街路樹から夏の日差しがこぼれいい気分だ。

「そーかメロ…んじゃ文無しなのか。」
「今まで稼いで来た分は定期にしてるけど。」
「……定期……預金?」
「ああ、満期が来月なんだよ。」
「…満期……」
「なんだよ、マット?」
「いや、A型だなあと思って…。」
マットはゴーグルをはずしてふき、ため息をついた。変なヤツ。

「じゃあ、いい仕事紹介しようか?チョコレートの密売なんだけど…」
「どんなチョコレートだか。」
俺は笑ったが、断った、
「もう裏の稼業は廃業でね。」
マットをこの世界に誘ったのは俺なので悪いとは感じる。
だが、断わられても彼は気分を害した風ではない、
マットはむしろご機嫌に笑いながら、グラスビールを飲み乾し言う

「本当にニアが好きなんだなあ、メロ。」

なんで!いきなりそこでアイツの名前が出るんだよ!
俺は周りの客にも構わず大声をあげてしまった。
「だって、ニアのためにまともな職につきたいんだろう?愛じゃん。」

……………。

「うぜぇ!てめえも男同士が暮らしてるの応援してんじゃねーよ!
しかも、おさななじみの野郎2人がデキたら気持ち悪がるほうが
普通だろうが!!うぜぇ、お前!!」
我ながら逆ギレもいい所だが、マットを責め立てた。
こんな恥ずかしい思いをさせやがって…許さん!
俺は隣の客の勘定までマットに押しつけて席をたった。

ストリートを渡った所で振り向くとマットが笑いながら手を振っている
「結婚式には呼んでくれよー!」
殺ス!!!


家路についたのはもうすっかり夜も更けていた。
結局今日も収穫なしだった。
前述の通り俺はデスクワークは向かないし
かといって顔に傷のせいか接客業も難しいようだ。
(傷より目つきの悪さが問題といいやがった店があったが…)
それにできの悪いヤツに使われるのはたまらなく腹がたつ…

我ながら就職はあきらめたほうがいいパーソナリティだな…

「自分で起業するしかないか…来月になれば金も入るんだし…。」
前々から考えていたことを…実行すべき時なのかもしれない。

俺が堅気の仕事を探しているのは悔しいがマットの言うとおりだった。
公的機関と組んでいるニアと暮らしている俺が犯罪まがいのことばかり
している訳にはいかない…

ニアの誕生日が24日なのでそれまでに仕事を決めたかった。
あいつはバレンタインやホワイトデーは小バカにしている風だったが
クリスマスやニューイヤーは好きだし、
自分中心だから自分の誕生日はきっと好きだろう?
俺が身を固めることが一番のプレゼントになるかな、などと考えているわけだ。

ニアと話をしなくちゃな…と俺は部屋のドアを開けた。

ニアはリビングのソファに転がったまま眠っていた。
外出着は窮屈なのかジーンズは床に脱ぎ散らかしている…
「しょーがねえなあ、掃除もしないくせに散らかしてばっかりで!」
俺は服を拾って叩きつけて起こしてやろうかと思ったのだが、
ニアの寝顔を見ると手をおろしてしまった。

いや…ここだけの話だが、あんまり可愛いもんだから…。

白い肌に半開きの桃色の唇…もうすぐ成人を迎えるとは
思えないあどけない寝顔だった。
頬の丸みを帯びたカーブが俺はお気に入りで果実のように
囓りたくなってしまう。
白い靴下だけの素足が寝返りで揺れて、なんともエロティックだ。

俺はソファに腰掛け少しづつ覆い被さるようにして唇にキスをした。
「ニア…」
軽くつぶやき、また唇を落とす。
確かに最近の俺は情熱が足りなかったかもしれない、
こんなに俺の官能をくすぐるニアをどうして1週間も放っておけたのだろう、
一緒に暮らしはじめた頃は1晩中…いや、2晩寝室に籠もって
貧血おこしそうになった位なのに…。
俺はきめ細やかな肌の腿を手のひらでなであげながら、
舌をニアの口に滑り込ませた。
「ん……ふぅ…。」
ニアは夢うつつの状態ながら吐息を漏らし…キスを返してくる
最初は緩慢だった舌の動きが徐々に早くなってきた、
やっと目が覚めてきたようだ。
俺は手をパジャマの裾から忍び込ませ胸元を愛撫する
ニアは俺の首に手を回し荒くなった息で深いキスの続きを味わう。
俺が胸の突起をいじると俺の舌を噛みそうになるくらい反応した。

「……ん、もう…痛いですメロ…。」
「感じてるんだろ素直にいえよ…。」
「いじわる…」
ニアは後ろから俺の髪の毛をくしゃくしゃにかき乱し、ふふっと笑った。
「良かった…」
「何が?」
「煙草の匂い…しません。」
ちょっとドキッとしたが
「マットとはなんでもないって言ってるだろ、他の野郎なんかに欲情しないって…。」
「女性ならするんですか?」
「いいかげんにしろよ。」

俺はお前だけだと言えばいいのだが、そんなセリフが吐ける位なら
俺たちは何百回もケンカなぞしてないだろう。
ヤキモチ焼きのウザイ口をまたキスでふさぎ、片手を下着の中に滑り込ませる…
彼の象徴をなでさすっただけで、全身が微かに反応する。
下着の上からなど、もどかしいといいたげにニアの腰が動いた…
快適に空調の利いた部屋なのにニアの体はみるみる火照っていく…
俺も服を脱いで体の全てをニアにぶつけたい欲望でいっぱいになった。
「ベッドに行くか?」
「連れて行ってください。」
ニアは俺の首に手を回す、
こんな甘い雰囲気は久しぶりだな…俺は膝裏を抱え上げようと手を回した所で
大切な話があった事を思い出した。

俺がニアを膝に乗っけたまま立ちあがらないでいるのを、
不思議そうな顔で見つめている彼に俺は自分の決心を告げた…

「ニア、仕事の事なんだけど…」
「見つかりましたか?」
「それなんだが…俺、探偵をやろうかと思ってる。」

俺とニアやマットが育った施設は表向きは子供達を集め個性や才能を伸ばす教育を
ほどこしていたのだが、実際の所は名探偵の補佐をするのが趣味のじいさんが
世界1の探偵を産み出すための機関だった。
金と暇のある人間はなにを考え出すかわからんもんだ、探偵小説の読み過ぎなのかね?
まあそれは置いておいて、
俺とニアはその中でも次期探偵候補ナンバー1と2だったのだ。

俺はニアがこの選択を喜ぶだろうと思っていた、
しかし、膝の上のニアからだんだんと表情が消えていき、熱かった体温も
みるみる内に元に戻った。
この案を歓迎していないのは、長年のつきあいだからすぐにわかる。

「驚きました。」
しばしの沈黙の中、ニアがつぶやいた。
「あんなに嫌がってたのに…。」

確かに俺はニアと2人で探偵をやってみたらどうだという院長のロジャーの案を
蹴飛ばしハウスを飛び出してしまった。
俺はニアに成績で勝てなかった、なのにペアを組むなんてお情けに
すがるようでそれが悔しくて長年の憧れより目の前の意地をとってしまったのだ。

「そうだけど…俺はあの頃の俺じゃないし…。」

そんな俺が遠回りをしながら、やっと探偵をやる決心がついいたのは大人になった
からだと思う…。
ニアに勝てない部分があっても俺は俺にしかできない事がある
今では自分に自信を持っている。
そんな俺の成長をニアなら理解し喜ぶだろうなどと一人で思いこんでいた。

気まずい静寂が続く…なんと言えばいいのだろう?
どうして俺の気持ちはニアに伝わらないのだろう…いつも。

そこへテーブルにおいていた携帯の着信音がなった。
着信メロディは「エンドレスラブ」……。
「レスター指揮官からです。彼が設定してくれました。」

レスター…怖い。

ニアは俺の膝からおり俺に目をくれず話をはじめた
「レスター、今日はどうも…ちょうど良かった、あなたにお願いしたい事が…。」
会話をしながらニアは自室に籠もってしまった。
俺はバカみたいにリビングに取り残されて宙に浮いた会話や欲情を
回想し情けない気持ちで四肢を伸ばし壁のカレンダーを見た
8月24日の文字が目に飛び込んでくる…

「チクショウ…」
とつぶやいた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ニアが2人のベッドに潜り込んだのは夜半を過ぎてからだった。
なにやらレスターと密な打ち合わせをしていた。
疲れたのかすぐに寝てしまったようだ、

背を向けて。

ニアは俺をバカにしているのだろうか?
自分にあった職業がないから自分で起業するなどとほざく
モラトリアムやニート扱いなんだろうか。
ふざけやがって!
俺はニアほど稼いでないかもしれないが、ちゃんと有能なんだよ!
と負け惜しみなような事を心の中で叫ぶ、
コンプレックスでいっぱいいっぱいだったガキの頃に戻ったみたいだ。

こいつと俺は体の相性が良かった時もあったが根本的には
合わないのだろうか?
すぐ手の届く位置で寝息を立てているニアに何だか距離を感じながら
俺はブランケットをたくし上げた。



「Birth Day」2>