『Love Game <前編>』 (続『Trick Art』、キリリク20000hit作品)





 照明を消した部屋へは、外からの月明かりが薄っすらと差し込むのみで、窓際のベッドに横たわるニアの表情が辛うじて浮かび上がる程度の明るさである。
 そのニアの表情は、これから自身に与えられる温もりへの期待と、愛する者の存在を感じることの出来る悦びに満たされていた。
 メロはゆっくりとニアの頬へと触れた。
 仄かに青白く光る滑らかな肌を、耳元から首筋へと指先を滑らせる。

「……んっ……」

 くすぐったいのであろうか、ニアは少し眉間に皺を寄せながら声を漏らした。
 そのまま両手をニアの頭の後ろへと回したメロは、自身の唇をニアのそれへと重ねた。
 柔らかく心地よい弾力のあるニアの唇は、程よく潤っていて、ほんの少し甘い味がした。
 メロは唇同士の間に僅かな隙間を作ることさえ許せないかのように、両手に力を入れてニアの頭を自身の方へと押さえつける。

「ッんん……」

 さすがにニアも少し息苦しくなってきたのか、思わず唇を開くのだが、そこへすぐさまメロが舌を滑り込ませる。
 ニアの口内を余すことなくまさぐるかのように、メロは舌先をうねらせる。
 キスで熱くなり始めた口内をメロの舌に犯され、ニアは息苦しさ以上に甘い痺れを覚えた。

「あっ……ん……」

 ニアの上に覆いかぶさるような体勢でキスを落としていたメロの下腹部に、高ぶりを主張し始めたニア自身の先端が触れ始めた。
 そのニアの素直な反応に満足しつつ、メロはキスを落としたまま、ニアの頭の後ろに回していた右手を離し、突き出したニア自身をズボンの上から掴んだ。
 ズボン越しではあるが、その熱がメロの右手へと伝わってきた。
 メロは舌先でニアの舌の付け根を絡めながら、右手でニア自身の先端をなぞった。

「ッん!? あ、ああ……んっ……!」

 二箇所同時に与えられたその刺激に、ニアの身体がビクンッと跳ねる。
 メロはキスを落としていた唇を頬から首筋へと辿らせながら、左手でニアのシャツのボタンを外していく。
 そして露になったニアの胸の先端へと吸い付き、右手の動きをより一層激しくした。

「メ……メロ……んっ……きもち、いい……です……ッあ……」

 ニアは開放された口元からの呼吸を徐々に荒げながら、メロの舌先から生ずる胸の先端と、メロの掌から生ずる自身の先端との両方の快感に、堪え切れないかのように身を捩じらせている。
 ニア自身の先端から溢れる蜜が、じわじわとズボンを滲ませ始め、メロの右手を湿らせていく。

「はははっ! お前、本当に感じやすいよな」
「そ、そんなこと……ない……です……」
「ん? じゃあ、こいつはどうだ?」

 少し強がりを見せたニアへ含み笑いを見せ、メロは右手をニアのズボンと下着の中へと滑り込ませ、ニア自身を直接握った。

「ひッ……あっ……!」
「ほら、そんな情けない声を出しやがって」

 そして徐々に硬さを増すニアのモノをきつく握りながら、メロもその手の動きを徐々に早める。
 ビクビクと脈打つニアの先端からは、止め処も無いほどの蜜が次々に溢れ出して行く。
 ニアは頬を染め、瞳を潤ませながら、メロから与えられる刺激に快楽の喘ぎ声を漏らす。
 徐々に自身の付け根に快楽の証がせり上がり、迫りくる甘い痺れにニアが下半身を震わせていた時だった。
 メロが不意にニアへ与えていた刺激を止め、上体を起こしたのだ。

「!? め、メロ……ど、どうして……?」

 間もなく達しようとしていたニアは、突然のお預けに対し、切なげな表情をメロへと向ける。
 だが、実はメロはそんなニアの反応に、自身の欲求を我慢しきれなくなっていたのだ。
 メロは無言で自分のズボンを下着ごと下ろした。
 するとニアの目の前に、はちきれんばかりに大きく膨張し、硬く反り上がったメロ自身が飛び込んできたのだ。
 メロのそれはピクピクと震えながら、先端から蜜を垂らしていた。

「悪ぃ……もう俺、我慢できない」
「……あっ!?」

 そう言って、メロはニアのズボンを引き下ろし、両足首を掴んで抱え上げた。
 そして露になったニアの後ろへ目掛け、力一杯に自身の先端を突き込んだのだ。

「ひっ! く……くぅ……」

 一瞬、裂けるような痛みがニアの後ろを襲うが、それはすぐに快楽を伴う刺激へと変わっていく。
 そしてお互いに愛する相手と繋がり合い、ひとつになっている悦びを実感する。
 メロは両腕ごとニアの身体を抱きしめながら、徐々に腰の動きを早める。
 その度に自身とニアの中を擦り付ける刺激に、目眩を起こしそうなほどの快楽が沸き起こる。
 ニアもまた、メロに包まれるような安心感に満たされながら、愛する者に貫かれる悦びに自身を震わせている。
 ギチギチとメロ自身とニアの中が擦れ合う音、クチュクチュとニアの先端がメロの腹に擦れる音、そしてパンパンとメロの腰がニアの腰へと打ち付けられる音が混ざり合って、二人の部屋を満たしていた。
 
「ん……ッん……んく……ん……あッ……んんっ……」

 きつく顔を顰めるその表情から、ニアが間もなく達しようとしているのがメロへと伝わる。
 メロもまた、ニアと一緒に達するべく、腰の動きを一層速めた。
 その激しい動きに、二人を支えるベッドの脚がギシギシを悲鳴を上げ始める。
 ニアを貫くメロの付け根が疼き始め、抑えようの無い衝動がその先端へと駆け上がった。
 そしてニアが上体を逸らし、身体全体を震わせながら最後の喘ぎ声を零した。

「あっ……ああッ……ぁ……」
「お、俺も、イクっ……うっ!」

 ビュッ! ビュルッ!
 ドクッ! ドクン……

 それと同時にニアの先端が白く弾け、メロもまた、ニアの中で達した。
 ニアの吐き出した精がメロの腹を伝い、メロの吐き出した精はニアの後ろからジワジワと溢れ出した。









「何故、ですか……?」

 ニアはベッドに横たわって、天井を見上げながら傍に並んで横たわるメロへと問いかけた。

「何故、だと?」
「ええ……私はあなたとのこの行為に、引いてはあなたとの生活にこんなにも満たされて幸せを感じています。なのに……」
「……」
「何故あなたは、どこか物足りないような……そんな顔をするのですか……?」
「……気のせいだろ?」

 そう、確かにメロは今のニアとの生活を幸せだと感じていたし、それなりに満足感も得ていた。
 だがニアが言うように、実は心のどこかで物足りなさを感じていたのも事実ではあった。
 そんなメロの僅かな心のわだかまりを、ニアは敏感に感じ取っていたのだ。
 なのでそのメロの言葉を、ニアは素直に受け入れることが出来なかった。

「いえ、気のせいなどではありません。確かに行為の最中には私を激しく求めてくれてはいますが……」
「ああ……俺はお前のことを心から愛しているし、こうして一緒になれて良かったと思ってるよ」
「メロ……」

 その言葉自体には嘘がないことがわかっているニアは、少し頬を染めながらメロの方へと顔を向けた。
 だが、直ぐに表情を真顔へと戻しながら言った。

「わかりました。その言葉に偽りがないのであれば、あなたの物足りなさの原因は……」
「……?」
「私達の間には子供ができない、ということですね」
「……んあ?」

 思いも寄らなかったそのニアの言葉に、メロはつい間抜けな声を出してしまった。

「確かにそうですよね……これほど愛し合っている私達がお互いの想いの証を求めるのは当然のことです。が、残念ながら同性同士ではそれは叶いません。そう、こんなにも求めているのに……」
「……って、お、おいニア? ちょっと待てって!」
「もしもあなたと私の遺伝子が交わりあえば、それは素晴らしい愛の結晶を授かることが出来るでしょう。ですがそれが無理だというならば、方法はひとつしかありません」
「待て! 俺は子供が欲しいだなんて言ってないだろ!?」
「あなたと私で養子……」
「だから違うって言ってるだろ!!」

 一向に論点のズレを修正しようとしないニアへ、メロは苛立ちのあまり大声を出してしまう。
 そんなメロへ、ニアは口元に笑みが浮かびそうになるのを堪えながら聞いた。

「じゃあ、何なんですか?」
「俺が物足りないと思っているのは、今のままでは俺のこれまでの『努力』が無駄になっちまうんじゃないかってことだよ!」
「努力、ですか……?」
「ああ、これまでお前と競い合ってLの後継者を目指して、マフィアに身をやつしてまでキラを追って、ここまで自分自身を高めてきた、その努力が……」
「そんなことだろうと思ってました」
「……何!?」

 その言葉で、メロは自分がニアの誘導に嵌ってしまったことを悟った。

「そう、私はあなたの口から今の生活に対する正直な言葉を聞きたかったんです」
「ということは、お前が子供が欲しいとかいうのは……」
「そんなの嘘に決まってるじゃないですか。私はメロ以外には愛情を一滴たりとも注ぎたくはありませんので。だいいち、私達に子育てなんて出来るはずありません」
「……」



 そのニアのふてぶてしい態度に、メロは呆れて言葉も出なかった。
 とはいえメロ自身、胸のうちにつかえていたわだかまりを吐き出して、少しすっきりとしたのは確かであった。
 そう、メロはキラ事件終結後、事後承諾ではあったがニアと結婚をして、ここリバプールで二人で暮らしている間もこれといった仕事をしてなかったのである。
 もちろんニアがLを継いで一ヶ月の間、ニアの世話を含め家事全般をこなし、世間を騒がせているニュースなどの情報を収集しては自分なりの理論構成を試したり、ニアの抱える事件にアドバイスを求められたりもしていた。
 だが、それらの日常はメロにとっては他愛のない、ともすれば退屈すら覚えるものであったのだ。
 一緒に暮らしているとはいえ、ニアはLとしての仕事のけじめはきっちりとつけていたので、どんなにたくさんの依頼を抱えていても、アドバイスを求めるのは情報が表に出ても構わないごく一部のものであり、多い時は丸二日間司令室に閉じ篭りっきりのときもあった。
 そしてニアがLとしての仕事に『充実感』を得ていることは、飄々とした態度の中からも時折覗かせていた。
 今、メロ自身が得られていないと感じている種類の『充実感』を……



「そうですね。確かにこれまでのあなたの生き様からすると、今の生活を『ぬるい』と感じても仕方ありませんよね」
「まあな。かといって、別に不満に思ってる訳じゃないんだぜ?」
「ええ……」

 と、ここでニアは上体を起し、考え事をするときの癖である右手での髪の毛いじりを始めた。
 斜め上へと視線を向けながら、指先にクルクルと髪の毛を巻きつけているニアを横目に、メロはベッド脇のサイドボードの上に置いてあったチョコレートを手に取り、音を立てて齧った。
 そのような状態でしばらく考え事をしていたニアであったが、ひとつ頷くと、髪の毛を弄っていた手を止め、テーブル上のノートパソコンを開いた。

「……?」

 その様子をメロが訝しげに見ている。
 ニアはパソコンが起動したのを確認すると、すぐさまロジャーへと通信を接続した。

『ワタリです。L、いかがされましたか?』

 予定外の時間の通信にも関わらず、すぐさまロジャーの合成音声が返事を返してきた。

「ワタリ……いえ、ロジャー、あなたクビです」
「は?」
『え?』

 その突然のニアの言葉に、傍に居るメロとモニターの向こうに居るロジャーが同時に口を開いた。

「ですからあなたは今からワタリではなく、ロジャーへと戻ってください。ワイミーズハウスの管理人に戻るなり、隠居するなり、再就職先を探すなり、好きにしてくださって結構です」
『え……L? いったいどういうことですか!? 私が何か不手際でも……』

 急にそのようなことを言われて、ロジャーが慌てるのも当然のことである。
 だがそれ以上に驚き、慌てることとなったのは、メロの方であった。

「いえ、ロジャー、あなたの問題ではありません。今からあなたの代わりにメロがワタリを勤める、ただそれだけのことです」
「……な……何だと!!!」



 驚きのあまり、目と口をこれ以上ないくらいに開いたメロの手から、チョコレートが零れ落ちた。





―つづく―


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