「Trick Art」<前編>
****************************** 「……本当ですか、メロ……?」 「ああ、僕はこんなことで嘘なんかついたりしない」 放課後に呼び出されて訪れたメロの部屋で、ニアは予想もしなかったメロからの告白に戸惑っていた。 窓の外から裏庭の林の木々を透かして差し込んでくる日の光が、そのメロの真剣な眼差しを照らしている。 少しは眩しい筈であるが、メロは瞬きをすることもなくニアの方を見つめている。 グラウンドで遊んでいる子ども達の騒ぎ声も、木々を巡る鳥達の囀りも、今の二人の耳には届いていなかった。 そう、お互いに目の前の相手にのみ、その全神経を集中させているのだ。 「疑うのなら、信じてくれるまで何度でも言う」 「メロ……」 「ニア、僕はお前のことが好きだ」 ニアはメロが自分のことを嫌っているものとばかり思っていた。 ハウスでの成績など、何かにつけてメロはニアへと対抗心を燃やしていたし、メロはいつもニアへは突き放すかのような接し方をしており、会話などもあまり交わされなかった。 ニアへ勝つために、メロは寝る間も惜しんで勉強をしていたし、それでも勝てなかったテスト明けなどは酷く機嫌が悪くなったりもしていた。 周りの子どもたちも『二人は競い合って、仲が悪い』という見解で一致していたし、メロとニアもそれを否定したことはなかった。 そんな中での突然のメロの告白である。 「ですが……あなたは今までそんなこと、一言も……」 「本当は……ニアがこのハウスへ来てから、ずっと気に掛けていたんだ」 「え!?」 明るくて活発なメロは、ハウスの子どもたち全員に、良かれ悪かれ何かしらの影響を与えていた。 ワイミーズハウスという空間において、メロはその中心で一際大きな光を放つ『太陽』のような存在であると、芸術家のたまごであるリンダも称していた。 そんな中にあって新入りのニアだけは、メロと関わろうとはせず、いつも一人で静かに過ごしていた。 その年下の澄ました少年が気に障ったメロは、何かにつけてニアへちょっかいを出そうとした。 それでもニアは大して反応を示すこともなく、メロも諦めてニアと関わろうとはしなくなっていった。 メロの意識の中から、ニアの存在は徐々に薄れていった。 しかし、ニアがハウスへ来て初めてのテスト後から、その状況は一変した。 それまでハウスで一番の成績を上げ続けていたメロが、新入りで年下のニアに負けてしまったのだ。 その時からメロの目には、ニアしか映らなくなった。 メロの意識は、大半がニアのことで占められるようになった。 そしてニアに勝ち、再び一番になる為、メロの持つエネルギーの矛先はニアへと向けられるようになったのである。 だが、そうやってずっとニアを見ていくうち、メロの心の中に『敵意』とはまた違った、別の感情が芽生え始めていたのだ。 ニアの物静かで落ち着きのある佇まいに、時折見せる憂いを帯びた表情に、「ドキッ」とさせられることがあった。 それら全てを自分の手で変えてみたい、そう思った。 しなやかで繊細そうな身体のラインに、柔らかく揺れるプラチナブロンドに、目を奪われることもあった。 それら全てを自分のものにしてみたい、そう思った。 遠くを見据えているかのようなそのグレーの瞳が、ハウスで一番の頭脳が、何に対して向けられているのかが気になった。 それら全てを自分の方へと向けてみたい、そう思った。 その相手を欲する気持ちが『好き』だという感情なのだと、次第にメロは気付き始めていた。 ただ、ニアに負けている今の自分では、それは叶わないと思った。 その為にもメロは、自分という存在がニアの上をいかなければならないと思った。 それからメロにとっては目的であった『一番になる』ということが、新たな目的の為の通過点へと変わったのであった。 「だけど、僕はいくら努力しても、お前に勝つことができなかった……でも僕は少しずつ、自分の気持ちを、感情を抑えきれなくなってきたんだ……」 「メロ……」 「このままでは僕自身、ニアへ対して何をしてしまうかわからない……そんな行き場のないお前への感情が、怖くなってきたんだ」 「……」 「だから、僕は一番にはなれなかったけど、この気持ちをお前に……」 メロは唇を噛み締め、小刻みに震えながらも真っ直ぐにニアの瞳を見つめていた。 そのニアの瞳に自分の姿が映っているのか、メロはそれが知りたかった。 「……ニア、お前はどうなんだよ……」 「……どう、と言われましても……」 「周りの皆が言うように、僕のこと、嫌いなのか?」 実はニアも、密かにメロへと想いを寄せていたのだ。 自分とは正反対で存在感溢れるメロへ、常に目を奪われていた。 はっきりとした強い意思の感じられる凛々しい瞳に、周囲を巻き込む快活さに、光を照らし輝きながらたなびく金髪に、ずっと魅かれていた。 興味などない、相手にもしていない、そんな振りをしながらもずっとメロへと憧れを抱いていた。 しかし、そんなメロは自分のことを嫌っていると思っていた。 自分のことを『敵』と見なしていると思っていた。 だからこの感情は、決して表には出さないと、ニアはそう誓っていたのだ。 だがしかし、そんなメロが自分のことを「好きだ」と言ってくれたのだ。 今ここでそれを伝えないと、きっと後悔するとニアは思った。 「……私も……」 「え!? ニア?」 「……私も、メロのことが……好き、です」 「……本当に?」 「はい……」 そのメロの問い掛けに、ニアは辛うじて答えた。 感情を抑えきれなくなってきたのだろうか、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいるように見えた。 白く透き通るような肌の頬が、紅を差したように赤みがかってきた。 ニアもまた、徐々に身体を震わせていくのが、メロの目から見てもはっきりと伝わってきた。 そんなニアが心から愛おしいと、メロは思った。 メロは思わずニアを抱きしめた。 その想像以上に華奢で、そして想像以上に柔らかいニアの身体にドキッとしてしまう。 ニアも突然メロに抱きしめられて驚いたが、そのメロの温もりに、次第に心地よさを感じてきた。 それこそが長い間求めていたものだと、お互いにそう感じていた。 「ニア」 「メロ……」 互いにどちらからとも無く唇を寄せ合い、口付けを交わす。 初めてのそれとは考えも付かないほど、深い一体感を感じた。 ニアの唇の柔らかさに、メロの唇の甘さに、互いにキスという行為に没頭し始めていた。 メロはニアへ唇を寄せたまま、ベッドへと横たわった。 メロに抱き寄せられ、ベッドに横たわったニアは、自分からもメロへと腕を伸ばし抱きつく。 先ほどよりもさらに一体感が増す。 限りなく沸き起こる感情の波の為に熱さを増していくニアの口内へ、メロの舌が侵入する。 交し合う熱、絡み合う舌、そして行き交う唾液によって、二人はまるで酔ってしまったかのように息を荒げていく。 キスだけで十分感じてしまった二人は、徐々に下半身に自身の主張を現し始めた。 メロがニアのそれへと手を伸ばし触れる。 「っん……」 ニアは思わず唇を離し、声を漏らす。 二人の唇の間に、透明な糸が伝った。 ニアのズボンの上から、メロは尖ったニアの先端を掌で撫で始めた。 途端にこれまでに感じたことの無いほどの快感が襲い、ニアは身を捩じらせてしまう。 「あっ……め、メロ……」 太腿の付け根から足の指の先まで電流が走り、ニアの滑らかな肌にうっすらと鳥肌が浮かぶ。 脳内に甘い痺れが沸き起こり、ニア自身の付け根が、じんじんと疼きはじめた。 「んんッ……あっ……」 ニアがビクビクと体を小刻みに震わせ始める。 ニア自身の先端を撫でるメロの掌に、徐々に湿り気が伝わってきた。 ニアの先端から溢れる蜜が下着を滲ませ、ズボンまで濡らし始めていたのだ。 「ニア……」 「やっ……は、恥ずかしい、です……」 益々頬を赤くして、ニアが瞳を閉じてしまう。 羞恥と快感に必死に耐えようとしているのか、眉間に大きな皺を寄せている。 そんなニアの恥らう姿が、メロの欲望をさらにたぎらせてしまう。 今まで聞いたことも無いような、艶っぽいニアの喘ぎ声が、もっと聞きたいと思った。 今まで見たことも無いような、艶かしいニアの表情を、もっと見たいと思った。 メロはニアのズボンの中へ手を入れ、下着をずらして直接ニアのものを掴んだ。 「あッ!? め、メロ……」 そしてそのままニア自身を握り込むと、それを上下に扱き始めた。 ニア自身とメロの手は、既に溢れていた蜜に塗れ、ちゃぷちゃぷと卑猥な音を立て始めた。 「んっ!! んんッ……あ……」 メロから与えられる強烈な快感に、ニアの思考はその役割を果たさなくなろうとしていた。 今まで生きてきた中で、起きている間中常に物事へ対しての考察を続けていたニアにとって、何も考えられなくなるような状態になるのは初めてのことである。 「あ……ああ……」 ニアの瞳と口は半開きとなり、その与えられる刺激によって沸き起こる涙と喘ぎ声を流し続けた。 メロの背中に必死にしがみ付き、まるでこれから迎えようとする大きな波に耐えようとしているかのようである。 ニア自身を掴むメロに手にも、ニアの快感の証しが、その付け根から徐々に先端へと競り上がっていこうとしているのが伝わってきた。 じんじんと絶え間なく沸き起こっていた自身の付け根の疼きが、一際大きく弾けたのをニアは感じた。 ビクンッ!! 「ッんん!! あ……あああ……」 ドクッ、ドクッ、ドクッ…… 溢れ出すニアの精液がメロの手を温かく濡らしながら、ズボンの中で広がっていった…… ニアは射精後の気だるさと疲労感に襲われ、ぐったりと横たわったまま浅い呼吸を繰り返していた。 だがメロは、自身の疼きが抑えきれないほど限界に達しようとしていた。 ニアのズボンの中で精液まみれになった指を、ニアの後ろの穴へと宛がう。 「……!?」 ニアの身体が緊張によって少し強張った。 しかしそれに構うことなく、メロは精液を塗りこむようにしながら指でそこをほぐし始めた。 先ほどの快感とは違い、腰の後ろから背中にかけて寒気を伴う冷たい刺激が、ニアを襲った。 「うぁ……め、メロ……」 「ニア、僕……もう……」 メロは上体を起こすと、自身のズボンを下着ごと下ろした。 ニアの目の前に、自分のものよりも一回り大きな、メロ自身が露わになった。 ビクビクと脈打つそれは先端から透明な蜜を溢れさせ、赤黒く変色していた。 メロはニアのズボンを下ろすと、ニアの両足を自分の腰の横に抱え込んだ。 「め……メロ……」 「ニア、いいだろ……?」 自らを欲してくるメロの瞳が、艶っぽく潤んでいる。 呼吸も荒く、肩が上下しており、抑え切れない衝動と必死に戦っているようにすら思える。 そんなメロを、楽にしてあげたいとニアは思った。 しかしそれ以上に…… メロとひとつになりたいと、思った。 「……来て、ください……め、ろ……」 「ニア……!!」 メロは自身の先端をニアの後ろへ宛がうと、そのまま腰を突き出した。 「あっ!! く、くう……」 後ろの穴が裂けてしまうかのような痛みに、ニアは必死に耐えていた。 メロは痛がるニアに少し気を奪われそうになりながらも、自身を抑えることが出来ずに、腰を突き進める。 ギチギチと締め付けてくる肉の感触が、高まるメロ自身へ強烈な快感を与えてくる。 「うっ……くっ……」 ニアは目を瞑り、歯を食いしばり、シーツを握り締め、それでもメロを拒むようなことはしなかった。 メロも早くニアを苦痛から解放してやろうと、その腰の動きを早めた。 お互いの溢れ出す蜜の為だろうか、少しだけ抵抗が和らぐ。 ほどなくメロ自身の疼きも、限界に達しようとしていた。 腰の動きを小刻みに進めながら、メロの先端がニアの中で弾けた。 ドクンッ!! ビュッ! ビュッ! 「ううっ! に、ニア!!」 「め……ろ……」 繋がったまま達したメロは、そのままぐったりとベッドへ横たわり、快感の余韻に浸っていた。 ニアは後ろの焼けて疼くような痛みに堪えながらも、優しくメロの身体を抱き寄せた…… 「……メロ……責任、とってくださいね……」 「責任? って結婚でもしろってことか?」 「まあ、そういうことです」 「でも僕たち男同士だぞ? 結婚なんてできないぞ」 「いえ、近いうちに法律的に認められるようになるはずです。少なくとも私達が大人になるころには」 「そう言われてもな……」 「何言ってるんですか、男同士が問題というなら、先ほどの行為自体が既に大問題のはずです」 「はははっ! そう言われればそうだな……よし、わかった。なら僕たちがハウスを出て、大人になって、再び出会ったときには……結婚するって約束するよ」 「……その約束、忘れないでくださいね……」 「ああ、その代わりニアも、このハウスではちゃんと仲が悪い振りを装ってくれよ。何てったってハウス内では恋愛厳禁だからな」 「そうですね。でも二人っきりになる時間も、ちゃんとつくってくださいね」 「それはこっちのセリフだよ!」 そう言って二人は再び抱き合い、口付けを交わした。 ****************************** |