「最後の夏休み」



8月24日・ニアの誕生日、
僕らは二人っきりで秘密の泉で過ごし心を重ね
体を重ね、時を重ね…
二人だけの思い出を深めた。

この日に限らず、この夏は最高だった。
休暇で手ぬるくなった監視のおかげで、
僕とニアはそりゃあもう始終一緒だった。


朝はニアの巻き毛にくすぐられて目を覚ます、

夏の間は僕も髪の色が若干濃くなるのだが
ニアのプラチナブロンドは冬場の白に近い銀色に較べて
金色がかった色合いをみせるようになった。
根元の色が変わるのはわかるのだが毛先まで様変わりするのは
不思議な気がして、何か秘密あるのでは?と
目の前の巻き毛をくしゃくしゃとまさぐってやる、
不意に起こされたニアは僕の手を寝ぼけながら払いのけ
不服そうに半目で口びるを突だす。
僕はその小さい口をキスでふさぎ
「おはよう、ニア」
と抱きしめる…
そのまま支度をする時もあればパジャマを脱がせ
また、夜の続きを楽しむ時もあった。

「メロ……もう、朝なのにダメですってば…昨夜からもう何回目だと…」

ニアは非難の声をあげるが、それが申し訳程度なのはあからさまで
その声はすぐに甘くくずれていく。
僕の背中に手を回しきつく抱きしめる、僕も負けない位強くと抱きかえすのだった。
ニアの体の中も僕自身も真夏の太陽より熱く、激しく
2人はシーツの海に再び溺れるていく…。


日中はニアは部屋で僕は戸外で勉強にいそしむ。
緑の木陰で僕は時折チョコレートを囓り、本から目をそらし窓辺の風に揺れる彼を見上げる
おもちゃを片手に書物に耽溺するニアは驚くような確率で僕の視線を察し
髪の毛を指で梳きながら、まなざしを投げ返してくる。
僕らの間にはきらめく絹の糸で結ばれているようだった、
2人の心の振動が糸を通り伝わり離れていても通じ合う。

人のいない時間帯に図書館で落ち合うこともあった。
ハウスの中でもいっとう古めかしいその場所は
夏でも涼しく、陽光まぶしい戸外に対抗するかのように
閑として心地よい陰をたたえている、
僕らは隅の小さいテーブルに差し向かいに座り
開いた窓から夏風を受け、なにも語らず本をめくるのだった。
そしてどちらともなく手をにぎり、ひじと額を合わせ目をとじる…
沈黙の中、瞑想するかのように、
祈るように。

風の音もカーテンのはためきも虫の声も聞こえない
僕らは海の底の深海魚のようにじっとしている、
額からお互いの思念が行き交い、細胞のすみまで活性化するようでもあり
生まれる前にいた場所に還り眠りに墜ちてしまうようでもあった。
ほんの10分のつもりが夕刻の鐘の音に驚いて顔を上げる時もあった、
もう2時間もたっていて、窓の外はあかね色の雲で満ちている。

「時間泥棒がいる。」
僕が苦笑すると淡いオレンジ色の夕日の中ニアも笑った。

ニアはこの数ヶ月でずいぶん表情が豊かになったように思う
僕が駆り出してからニアもそれなりに人づきあいをするようになったし
お人形のような無表情さから較べると普通の人間ぽくなってきた、
でも、ニアが屈託ない笑顔を見せるのも甘い秘密の表情も見せるのも
僕にだけだ。
それが得意で仕方ない。
ニアは他人と目を合わすのが苦手なのだと思っていたが、
その時々で一番興味を持つものを見つめているのだとわかるようになった、
以前はおもちゃやモニターだったのだが今は僕だ、
僕を正面からも横からも見つめる、今のニアは何よりも僕が好きなのだ。

僕と過ごすようになってからニアは毎日綺麗になっているように思う
(それとも僕が毎日ニアに惚れこんでいってるんだろうか…?)

以前のこどもこどもした体型から少し背がのびた分華奢になった首筋を揺らし
僕の腰の上で白い肌を紅潮させ息を荒げるニアを見上げ
その美しさに見とれてしまい呆然と体が硬直してしまった事さえある

「メロ……もう!…ちゃんと、動いてください…!」

哀願と叱責の混じる声でニアに怒られたっけ、
時が止まればいい…と願う瞬間が何度もある夏だった。



でも時間は容赦無く過ぎていく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あ…あん…んんっっ、ハ、ハア…ん! …メロ…あん、メロ…」
ニアの声を聞くのは好きだ、もっともっと乱れさせて僕の名前を絶叫させたい
と思う反面、柔らかく薄紅色のくちびるが震えるのを見ると
僕の口でふさいで吸い尽くしたい気持ちになる。
どうすればいいんだか…、汗と中央からの快感にまみれ律動を繰り返す
僕は朦朧としてくる意識で悩んだ。

「メロ…あ、ん…キスしてメロ…!」

ニアの哀願により僕は声をあきらめてキスを取ることにした。
結ばれたまま身をかがめ彼の口に到達し侵入する、
ニアも僕を飲み込まんとせんばかりに舌をからめ口内で踊り出す、
深いキスで僕は酸欠寸前の状態に陥るが
ニアは攻撃の手をゆるめようとしない、
僕は何人とも深いキスの経験があるわけではないが
この年でこんな巧みなヤツは絶対いないだろう、
なにも知らなかったくせに成長が著しすぎる!
なんだか悔しいのと意識が飛ばないように僕は腰の動きを早めてやった

強く・激しく。

「や、やあ…はああああ!」
ニアは思わず口を離し甘さと苦さの混じった嬌声をあげる、
僕は勝ったような得意な気分になり、ひときわ大きな動作で
引き抜き、そして、貫いた。

ニアは僕の望みどうり大声で僕の名を呼び、
白い体を震えてそらし、自分を解放した。
僕はニアの体に負担がかからないよう、体を離し自分の手の中で
怒張した欲望を受けとめた。
陶酔と解放感で体がガタガタとわななく。

息もたえだえのニアはそれを横目で確認し
「良かったのに……なかでも…。」
「無理すんなよ。」
僕は振り返って言った。
ニアのシーツから半分のぞかせた顔がほころんだ。
「ありがとうございます……メロ」
あんまり可愛く言うものだから僕は体を反転し、またニアにキスをした
今度は天使の羽がかすめるような優しいキスを…。

その後はさすがに体力の限界でベッドに倒れ伏した。
芯から熱くなっている体を冷やすためシーツの冷たい部分を探したが
なんせ、ベッドの上中僕らは転げ回っていたのだから
どこも熱気が残っている、
あきらめて僕はベッドから転がり落ちた。

僕が床に落ちる前に カラン と金属の音がした。

裸で床に転がった僕は仰向けになり背中の冷たい木の感触に癒される。
長い髪の奥の熱気も取りさりたいと首元を指で払いのけた時
ロザリオをしたままだったのに気付く、
金属の音はそれだった。

指でつまんで空で揺れるロザリオをボンヤリと眺めた…

僕はそれから指を離し腕を床に広げた。
ロザリオは音もなく裸の胸に落ちる…
体の奥で鈍い痛みが走ったような気がした……。

月の光が窓の桟越しに寝室を照らし、僕の体に十字架の影を落としている。

窓の外では秋を告げる虫の声がする、
短い夏の休暇はもう数日で終わる…
これまでの夏はハウスに残されるのが嫌だった、
帰る場所・行く場所のある級友たちがうらやましくて、悔しかった…
休暇が終わるのを待ち望んでいたのに
ニアと過ごしたこの夏は行き過ぎるのが寂しい…
夏の終わりに誰もが感じるという寂寥感を初めて肌で感じた。
冷たい床はもう真夏のものではなく秋がそこまで来ている事を告げている。

ワイミーズハウスで過ごす最後の夏が終わろうとしている
この冬、僕は大人としてハウスを巣立って行く。
年下のニアは後2年ここで過ごし、その間離ればなれだ。
今、僕の世界はニアでいっぱいなのに、耐えられるのだろうか?
夢うつつでそんな事を考えた。

ニアはベッドで寝息を立てている。
離れたくない…僕らは元がひとつなのに離れてしまうのは不自然じゃないか…

早くLの元で働きたくて、それを目標に前へ前へとして生きてきたのに
今の幸せを失うのが怖くなっている…僕らしくない…
うつろう季節のはざまには、この国の北からさびしがりやのエルフがやってくるのだろうか?
夜の風にのり、物悲しさを振りまき僕を包み込もうとしているのか…


「メロ!!!」
突然の大きな声に僕は唐突に夢うつつから引きずり出される、
いつのまにか月は雲でかくされ、辺りはすっかり闇におおわれている。
「メロ…どこ!?嫌…」
ベッドで寝ていたはずのニアが叫んでいた。
僕は慌てて暗闇のなか白い影をみつけ駆けるよる、
ニアは僕の体を手探りで確認すると思いっきり抱きついた、
力は強いが体を震わし頭はガクガクと揺れている、
「ニア、どうした、僕はここにいるって!」

「メロ…ああ、メロ…」
ニアはかすれる声でつぶやき、いっそう僕にしがみついた。
「どうした、怖い夢でも見たのか?」
ニアが取り乱すなんて初めてで僕はすっかり困惑してしまった。
ニアは僕の腕に頬をすり寄せる
「はい…。」
「どんな?」
「よく、わからない…でも…メロがいなくなってしまって…。」
「僕はここにいるよ?どこにも行かないから。」

「嘘だ!あなたは行ってしまう。」

ニアが不思議なほど強く断定的に叫んだ。

「あなたは行ってしまうんです、私の前から消えるんです!」
顔をかがめ震えながら、だがハッキリと言い放つ。

僕がワイミーズハウスを卒業することを言っているのだろうか?

闇は不安を高めてしまう、ベッドの横のランプをつけると
ニアの揺れる髪がやっと見えた。
手のひらで覆い顔をもたげると泣いてこそはいないものの
瞳が潤み、顔面は蒼白だった。
背中は冷や汗で濡れている。

僕はサイドボードにあった食べさしのチョコレートを取り口に含みとろかせた、
そしてニアに口移しで食べさせる。

「ん……」
唇の暖かみとチョコの甘さが不安な夢を和らげたのか
すこしづつ落ち着きを取り戻していくようだ。


僕はニアの羽織っていた上着を脱がし、ロザリオをベッドヘッドの飾りに
ひっかけてニアを抱き上げてバスルームに連れていった。
冷たい夜風にあたった体を温めてやりたい。

コックをひねって熱いお湯を浴びる間も僕から離れたがらないので
一緒にバスタブに入り、上等の海綿にミルクの匂いのシャボンを
たっぷりつけニアの体を洗ってやった。
ニアはもう赤ちゃんみたいに僕に体を預けている。
僕と離れる事が悲しくてすがってくるニアが可愛くて、愛しくてしょうがなかった。
僕は暖かな蒸気と泡の中、彼を抱きしめ耳元で囁く、
「僕だってニアと離れるのは嫌だよ、でも、僕がここを卒業しても
何年かしたらまた会えるだろ?そしたらその後はずっと一緒だ。」

「本当ですか……?」
「約束しただろ?一緒にいようって、ここを出ても大人になっても。」
「はい、しました…約束です。」

ついさっきまでニアと離れたくないと一人ごねていた僕はどこへやらで
大人びたセリフが次から次ぎに口をつく、
ニアより年上なのに成績で負けていることが我慢ならなかった日々もあったのに、
今は僕が先に生まれていて本当に良かったと感じている、
早く大人になってニアをずっと守ってあげれるのだから…。

お湯と僕でぬくもりを取り戻したニアは随分落ち着きを取り戻したようだ
僕は彼の小さな体をバスタオルでくるむようにして部屋に戻り
引き出しから新品のパジャマをだして着せてやる、
甘えてるのかボタンまで僕が止めるのをまかせっきりだ。
僕も裸では寒くなったので洗ってあるパジャマを借りた、
だぶだぶなので僕でも充分着れる。

「ニア見て見ろよ。」

僕は姿見を指さした。
薄明かりの中の同じパジャマの僕らは背丈が違うだけで
本当に双子みたいに見える、
ニアの髪の色が濃くなっているので余計に似てみえた。
僕の言いたいことは言葉に出さなくても伝わり
ニアはこちらを向いて微かにに微笑んだ。
僕らはシーツも新しいものに換え、窓から夢魔が忍び込まないよう
しっかりと締めて寝床に入る、もうニアはすっかり落ち着いたようだ、
ニアがふっと手を差し出してきた、
僕はその手をつなぐ。

「メロ」
「何?」

「…好きですよ、メロ。」

毛布から少し顔をだしてニアがつぶやく…
いきなり言われると照れてしまうじゃないか!
いつもならつい照れ隠しで乱暴な言葉や態度をとったりするのだけど
大人の自覚を持った今夜の僕は暴れ出しそうな心を抑え
「僕もだよ。」
と落ち着いた風をよそおいニアに返す。
ニアはなにも言わなかったがつないだ手をキュッと握った。

こんなに満ち足りて人と通じ合うのは至上の喜びではないだろうか?
僕は幸福に酔いしれ、さらに甘い言葉が聞きたくて
前々から気になっていたことを知りたくなった

ニアはいつから僕を好きだったのか?

僕は最初にキスをした黄金の夕暮れがきっかけではあったけど
多分それよりずっと前からニアが気になってしかたなかった。
ニアは僕をどう思っていたんだろう?

「なあ、ニアは……」
僕が口を開くのと同時にニアが片手を上に上げて
何かをつかんだ、
僕がひっかけておいたロザリオだ。

ドキリとした、何が?自分でもわからない
ただロザリオが人の手にあるのに動揺した。

十字架をつまみ上にゆすり器用にチェーンの部分をパイプからはずした。
ずっと見つめている
「これ…ハウスを出るとき私にくれませんか?いえ、貸してください。
また、メロに会える時まで、メロの代わりに…」

ニアの話をさえぎるように、白い影が空をかすめ驚くような速さで
ロザリオをニアから奪った。

ニアが目を丸くして僕を見ている
僕の手はロザリオをにぎりしめていた。

「ニア、あ、ご、ごめん…」
自分の行為に驚き僕は言葉がつながらない、

「勝手なことを言ってすいません、メロ。大事なものなのですね。」

「いや…」
別に…大事じゃないこんなもの、なのに…僕は。

居心地の悪い間が広がる、それをかき消すかのように
ニアがもう眠りましょうといい、僕はランプを消した。

ロザリオを奪った時に離した片手をまたそっとニアの方に差し出した、
暖かみのある指に触れると、彼の指もつつと僕のほうに歩いてきて
また手が繋がれた。
僕は少しホッとする…。

ロザリオを首にかけ直した僕は眠ろうと努力し
闇の中のフクロウの声と
ニアの手のぬくもりに集中し、やがてまどろみに落ちていく

この夏はずっとニアと一緒だった、
本当にずっと、つながっていた。


まるで何かに引き離されるのを怯えているかのように…。




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