「冬の終わりに」
ここウィンチェスターのあるハンプシャー州はイギリスでは もっとも日照時間の多い地方のはずなのだが、 どうもそうは思えない… 僕の住むワイミーズハウスはいつも重い灰色の雲がたれこめ 昼間でもあちこちの片隅に闇がうごめいているように感じる。 あるいは、それは天候のせいではなく、この重厚な建物とこの場所に まつわる秘密のせいなのかもしれない…。 僕の名前はメロ、13歳になる。陰鬱な建物とは裏腹に僕はこの ワイミーズハウスで非常に充実した時を過ごしている。 勉学は高校課程はとうに修了し1流大学のカリキュラムをこなす毎日だ。 友人にも恵まれ、スポーツにうち興じる。時代ががった建物に中は 実は最新鋭のセキュリティが配備されおそらく世界最高クラスの 教育設備が整っている。 ワイミーズハウスは1養育施設として登録されているものの実は 選ばれた少年少女にのみ門戸をひらいている養成機関なのだ。 世界の最後の切り札、名探偵「L」を育成するための。 この秘密は僕の胸を高鳴らせ、僕の世界を輝かせている! Lにめぐり合えたこと、Lを目指すために切磋琢磨できることを 夜、眠る前にロザリオを手に神に感謝する。それが僕の日課だ。 僕は満足していた。 ただ2つの事をのぞいて。 「何度言ったらわかるんだね メロ。」 ロジャーのお説教はもう30分も続いている。 イライラすると僕は大好きなチョコがかじりたくなった、がさすがに 院長のロジャーの前ではそれを控えた。 それに、今回は確かに僕が悪かった。休み時間、混合でサッカーをやっていた時 相手チームの上級生がこちらの下級生に反則の足技をかけて転ばした。 リーダーの僕が注意すると、そいつは向こうから手を出してきやがった。 僕は倍にして返してやる!とそいつを殴った…所までは覚えている。 気がつけば僕は複数の男の教官に羽交い絞めに取り押さえられていて、 足元には上級生が血を流して泣きながら僕に許しをこうていた。 僕が助けてあげた下級生も女の子たちも遠巻きに震えながら僕を見ている…。 それが僕を悩ますものの1つ…僕の中には炎のような野獣が住んでいて 時折それは僕の意志では制御不能になり暴れだし、 自分でも手が付けられないのだった。 「メロ、そんなに感情的な性格でLが務まるとおもうかね?」 これは殺し文句だ。ロジャーはLやワイミー氏にこの事を告げるのだろうか? 僕はそれを恐れ、ロジャーに素直にわびた。 自分の野獣を飼いならす、これが今の僕にとっての1番の命題だともわかっていた。 「わかればよろしい……もう行きなさい。」 やっと解放された喜びで、僕は挨拶をして晴れ晴れとドアに向かった。 背後でロジャーの声がした。 「メロ……おまえは少しニアの冷静さを見習うといいね。」 ロジャーは僕をわかっていない。僕の気持ちをわかっていない。 逆効果だ! 「あいつなんかと較べるな!!」 僕は怒鳴って乱暴にドアを閉めてしまった。 またやって、しまった。僕はドアを後ろ手に首をたれて後悔した。 これで、ワイミー氏の元にも今回の事件を報告されるだろう、Lは僕の評価を 落とすだろう、自制心のない人間だと。 「ただで、ただでさえ…2番なのに…」 うつむく僕の足元に廊下の窓から差し込む夕陽が作りだす影が見える、 格子になっている、それは僕をとりまく牢獄のようにも見えた… そこに足音もなく人影が伸びてきた。 顔を上げると、僕を悩ますもう1つの原因である人間が立っている。 銀色の髪に真っ白い寝間着を着た少年、 彼の名はニア。 彼は僕より2歳も下なのだが、もう何年もこのワイミーズハウスでトップの成績を おさめている。すなわちそれはLの後継者の筆頭である事と同義語だった。 「何、見てんだよ。」 僕は落ち込んだ様子をニアに見られたのが悔しくて、怒鳴るように言った。 「私はあなたを見に来たのではありません。院長に呼ばれたからきたまでです あなたが邪魔をして入れないから困っている所です。」 ニアは淡々とそう言った。 ムカツく!!!こいつは本当にムカつく!!事実をありのまま述べただけで なぜこんなにムカツくんだ!これは一種のこいつの才能か? ニアが小脇に抱えているブリキのロボットを見てさらに腹が立った、 こいつはいつもこんな風にガキじみた玩具を持っている、ロジャーに会う時も 変わらない、ロジャーがそれを許すからだ、ニアが1番だからだ!! こいつを見ているだけで僕の野獣は瞬時に盛り上がってしまう。 僕はニアの顔面にこぶしを思いっきり振るった! もちろん、殴るまねをするだけだ、今日これ以上もめ事を起こしては反省房送りに なりかねない、顔面寸前で止めニアにしりもちをつかせ半べそをかかせてやる… …つもりだったの…だが…。 風圧でゆらゆらと銀の髪の毛が揺れただけで ニアは微動だにしなかった。目の前で止まった拳を見つめ瞬きすらしない、 こいつは痛みが怖くないのだろうか?それとも僕が本当に殴る気がない事を わかっていたとでもいうのか? ニアは、前髪の隙間から半目で僕を見つめた、 なに馬鹿な事をやってるんですか?とでもいいたげに、 「ケッタクソ悪い!!」僕ははき捨てて廊下を走り去った。 ニアと僕はことごとく対照的だと皆言う、僕の金髪にニアの銀髪、白い服、黒い服 活動的で社交的な僕、ほとんど外に出ない、いつも1人のニア。 なのに、時々双子のようだと言われる。 僕にとってはとても不愉快な事だった。ニアの出生は知らないが血縁関係はまったく ないはずだ。ほとんど会話をした事もない。 似たところなんてあるはずがない。 僕はニアが気になってしかたないのは、あいつが1番で僕の上だからだ、 僕があいつを越しさえすれば、どうでもよくなるに違いない。 その日のために僕は勉強にはげんだ。僕は運命という言葉が好きだ。 運命というより、出来事には必ず意味があると言ったほうがいいだろうか? 僕が1番を取れなくて悔しくて仕方ない事も、ニアにムカついて仕方ない事も それを原動力にして自分を高め、Lに座を勝ち取れば、僕の人生に必要な経験 だったという事になる。 そのために神が与えてくれた宿命だと思えばいい。 そしてその運命を切り開くのは自分の力に他ならない 鬱蒼とした林の奥から聞こえるふくろうの声を聞きながら 僕は1人夜更けまで勉強をした。今日の失態を取り戻すために、 Lに認めてもらうために!Lになるために!数式をあやつりながら 僕はその言葉を頭の片隅で呪文のように唱えつづけていた。 その日、僕は礼拝堂で主に祈りを捧げていた。 今日、Lが「キラ」を追って日本に向かったことを知ったからだ。 Lの勝利を祈った。祈りなど捧げなくてもLは大丈夫だと思ってはいるが、 世間を騒がせているキラは常識では考えられない力で殺人を遂行するらしい。 僕はキラやLの事がもっと知りたくなった。 だが、ロジャーは詳しい事は話してくれない…イラつきながら遊戯室の前を 通ると白いものが床にうごめいた。 ニアだった。ニアは新しい飛行機のおもちゃが気に入ったようで 1人で床を転がりながら遊んでいる。 「バカみたい…」 幼稚園児かよ! 僕にもすぐ逆上したりチョコをやめられなかったり悪癖はあるが こいつはもう常軌を逸している…とあきれつつ僕は部屋の中に入った。 ニアは気に入らないがヤツならLとキラに関する情報を僕より知っているかも しれない……。気配で僕が近づく事などわかるだろうに、 ニアは完全に僕を無視してる。 ふと足元をみると絨毯の上にジグゾーパズルのピースがくずれて転がっている。 真っ白なミルクパズルというヤツだ。 かなり難しいといわれるこのパズルを見てると征服欲が湧いてくる 僕はしゃがんでパズルの端を選んで並べだした。 「触らないでください!」 後ろにも目があるようにいきなりニアが僕に怒鳴った。 そして、普段の動作からは考え付かないスピードで僕のほうへ 飛んできて、僕からパズルを奪った。 「これは私のです。」 「なんだよ、ケチくさい奴!」 その後は僕の存在などまた忘れたかのようにパズルをはめ始めた。 僕は目を見開いた。 真っ白いパズルをなんと真ん中から瞬時に埋めていく、 いくら慣れていても常人の技ではない。 僕は立ち上って足元に出来ていくパズルに半ば見惚れていた。 そして、出来上がったパズルの隅に「L」の文字を発見した時 また、僕の中で野獣が雄たけびをあげそうだった。 「……これ、Lにもらったのかよ…。」 「答える義務はありません。」 ニアは顔をあげるでもなく言い捨てるように言った。 僕は嫉妬でいっぱいで思わずニアの襟首をつかみ乱暴に引きずり上げ 「答えろよ!」と詰め寄った。 ニアは中腰で僕を見上げている、強引に引き上げたので 前髪が乱れめずらしく額が覗いている。 ニア僕はニアに顔をまともに見るのは初めてかもしれない… パズルと同じ位真っ白い肌、桜貝の色の唇は やはり自分には似ていない… 黒い目は確かに似ているかもしれない… 僕はニアを見た、吸い寄せられるように見つめた ニアの瞳をみつめていると意識が飛んでしまうようだった。 僕と同じ黒い瞳に僕にはない輝きが一瞬映ったように見え、 僕はそれがなんなのか確かめたくなって顔を近づけた。 僕は驚いた!自分が一番驚いていた!!!何故!!! …………僕はニアの頬を両手で覆いニアにキスをしていた。 自分で自分が信じれれない でも、僕の唇はニアから離れようとしなかった。 柔らかくうるおったその場所を丹念に僕の唇は吸い上げた。 するともっと驚いた事が起こった。 ニアが目をつむり僕の体に手を回し抱きしめてきたのだ! 部屋のドアはあけっぱなしで誰が廊下を通るかも しれないのに、僕らはそのまま抱擁とキスを続けた。 僕も目を閉じた。 瞳を閉じながらもいつもは影をたたえたこのワイミーズハウスが 今は黄金の光に溢れているのを肌で感じた。 |