僕はニアに詰め寄る。
Lを目指す条件の一つである、秘密の本名を告げろと、
ニアはほんの一瞬だけ黙った。
そして、いつものすました口調ではなく幼い少年の口調で
しかし、キッパリと言った。

「いやだ。」

僕は自分の腕が宙を舞うのを見た。
次の瞬間、ニアがベッドから転がり落ちていく。
「この!!嘘つき!!裏切り者!
僕を好きだっていったくせに!
お前はLの座のほうが大事なんじゃないか!」

僕は倒れたニアに馬乗りになり襟元をひっつかみなじる。
もうだめだ!僕の野獣が覚醒してしまう。
もう、僕は僕でなくなってしまう、ニアを傷つけてしまう、
あんなに愛しく、あんなに大事にしていたのに。
「ニア…」
僕は涙声になり、ニアを抱き起こし、抱きしめた、
いつものように…
なめらかでみずみずしい肌、やわらかな産毛、
僕と同じシャボンの香りのするニアの体だ。

「ニア…本当にだめなのか?」
僕はニアと過ごした四季がよみがえる

黄金の光の中キスをした秋
寝床で髪先がくすぐったかった冬
初めて2人で朝を迎えた春
秘密の泉で遊んだ夏

「ニアが名前を言ったら僕も教えるよ!2人でやめようLなんて…。」
激情の中、でもそれは、その時の僕の本心だった。
ニアに本当の名前で呼ばれたい
…ミハエル……
もう何年、耳にしてないだろう本当の僕の名を。

僕はニアの髪に顔をうずめ、髪の上から耳たぶを甘噛みした、
そのまま、くちびるを頬にすべらせ口元の血の後を舐めて
きれいにする…。

ニア…お前はいつも、言い出したらきかない僕を
しょうがない人ですね、と困ったようにつぶやき
僕に従ってくれたじゃないか…
愛してる、愛してるんだニア…。

僕らは膝をつき、額を合わせ手を胸の辺りで組んだ
…祈るような姿勢…
そしてニアの返事を待った。
ニアの目は潤んでいる、僕を求めている、いつもの目だ…

「ごめんなさい。」

だが、唇は無情な言葉を吐く。



また、夜の鳥が鳴いている。

ぎゃあ ぎゃあ ぎゃあぎゃあ
うるさい!うるさい!うるさい!!!!!

僕をこばむ呪いの言葉を吐いたニアの口なのに
ニアはその柔らかい皮膚を僕の口に押し付けてきた。
深く、深く中に入り込み、僕を吸う…
いつもどうりのキスなのに、
こんなに悲しいキスは初めてだった。
僕は息が出来なくて、酸欠になり頭が揺らぐ…
でも、ニアのキスは止まらなかった!
僕はこのままニアに吸い込まれてしまう!取り込まれてしまう!
嫌だ!僕はニアの欠けた破片じゃない!
こいつのパズルのピースじゃない!!!


ニアが怖い!
僕は彼を思いっきり突き飛ばした!
「ふざけんな!色仕掛けでいいなりにする気か!
この男娼!」
「違います!ちが…やめて…メロ…。」
僕は床にニアを打ち倒し、服をビリビリに引き裂く。
野獣が咆哮を立てる!
絶望と憎しみを喰らい、ヤツはみるみるうちに増大し、
もう止める事は出来ない、誰にも!

僕を拒み僕を操ろうとするニアが許せない!
僕はニアに覆いかぶさり、
引き裂かれた衣服から覗く足を強引にひろげ
怒りと興奮でいきりたった僕自身をいきなり
押しこんでやる!!

「−−−−−−!!!」

声にならない悲鳴をニアがあげる、
なんの準備もなく突き上げられた、ニアの内部は
擦り切れ白い肌から血が流れる、
僕自身も焼け付くような感覚があるが、
怒りのため痛みを感じない、
「う…ぐぅ…。」
ニアはうめき声をあげるが、僕をなじりもせず、
抵抗もしなかった。
それすら、彼の罠に思えて、僕はさらに激しく突いていく、
僕がいつくしんだ体を壊していく
僕の美しい世界を自分自身で壊していく。

こんな僕をみんなが見たらどう思うだろう?
軽蔑するだろうか、気が狂ったと思うだろうか?
皆って誰だよ?
僕は誰も知らない!
何が、友達だ!何が恋人だ!お笑いだ!
本名すら知らない奴らじゃないか!
皆、お互いを欺きあって生きてる連中じゃないか!

こんな所でおかしくならないほうが
おかしいんだよ!!

L……L、憧れのL、敬愛するL
なんだよ「L」って?
あの数回挨拶をかわし遠巻きに眺めた
あの長身の黒髪の男か!
あいつが本物のLだって保障がどこにある!
みんな嘘だ、みんな嘘っぱちだ!!!!
皆嫌いだ!Lも、ワイミーも、ロジャーも
ワイミーズハウスも、この世界も!

死ね!みんな死ね!!


ニアの体にバタバタと水滴がこぼれる…。
僕が泣いているのだと気づいた。
ニアがそんな僕を見て泣いている、
顔面を蒼白にし、唇をふるわせ…
痛みなのか悲しみなのか…
彼の涙は初めてみた。
「メロ…泣かないでメロ…。」

「僕はそんな名前じゃない!!!」
僕はいっそうニアを打った。
ニアが痛みで気を失い、
全身の力をなくし崩れ落ちても、僕は容赦しなかった。
洗面器で水をかけ、意識を無理やり戻し、
いつまでもニアを責めつづけた。


◇◇

ニアは3日部屋から出てこなかった、

そしてその後は何事もなかったかのように授業を受けた。
彼は引きこもった理由を誰にも言わず、
僕は誰にも責められなかった。
あの夜のことは誰も知らない、いや、皆知っているのかもしれない。
でも、もうどうでもいいことだった。

僕らの仲はあの夜で完全に終わりを告げた。

切れた綱は結べても、壊れた玉子は戻せない、王様でも兵隊でも。
くだけたハンプティダンプティはニアなのか?僕なのか?


僕は激昂の後、残骸になって転がっている思考を拾い集めて考える。

僕はニアの全てが好きだと思っていたのに、
僕を好きなニアが、僕に従順なニアが好きなだけだった…
自分の見たいニアしか見てなかった。

さびしかったのは僕。
孤独だったのは僕。
誰かに思い切り愛されたかったのは僕だった!
運命の相手と言われたかった、
自分の存在に意味があると思いたかった。

僕はニアに自分を投影し猫可愛がりし、
思いどうりにならないとなじり、依存した。
僕の気色の悪い自己愛だった。

自己愛ですら、ないかもしれない、
僕はありのままの自分など少しも愛せていない、
自分の過去も現在も呪っているのだ。
この淀んだ世界をオセロの盤面のように
いきなり黒から白に変えるには、
一番になるしか、Lになるしか今の僕には
思いあたらなかった。
ニアを越えて一番にならない限り、
僕はニアから逃れられないだろう、憎しみも混沌も
決して捨て去れない事は確信にも似た思いがある…。

僕はワイミーズハウスでLを目指す事を続ける事にした。
連中のやり方は気に入らないが、手前勝手なのはお互い様だ、
やめたければ、いつでもやめれた、選んでいたのは僕だ…。

空は灰色の雲を垂れ込め、凍てつく冬を向かえていく。
僕はまた勉強に打ち込み、成績は瞬く間に回復したが、
それでもニアは抜けなかった。
ニアとは舎内で会う事もあったが、あんなに通じ合っていた
2人の間にはうつろな空間が転がっているだけだった。
ニアは2度と僕を見ることはなかった。
彼の世界には僕はもう、いないのかもしれない。

◇◇

12月のある日、
ロジャーが言った、Lが死んだと、
キラに殺されたのだと!
僕は信じられず、つかみかかった。
世界はなんて脆いのだろう、
信じていたものが一瞬で崩れ去る。
ロジャーは僕とニアに2人でLを継ぐよう薦める。
久しぶりに近くにいるニアは小さくうずくまりながら
ロジャーの意見に賛同した。

僕を憎んではいないのか?
2番の僕に同情か?
また僕を利用しようと考えてるのか?

ニアといるだけで僕は逆巻く感情の渦を押さえられない…
僕は申し出を断り、ここを出て行くと告げた。



土砂降りの雨の降る夜、僕は玄関を出て門に向かう、
L、憧れのL、本当の名前も知らないL、
愛なのか憎しみなのかも
わからない涙が頬を一筋流れる、
それは、雨に流されすぐ消えた。
ワイミーズハウスの門が閉まる音がする
それは少年期の終わりを告げていた。

僕はもう、自分の中の野獣を、激情を押さえる事はやめよう!
僕にあってLやニアに無いものはこれだけだ。
こいつを解放して自分のやり方でLを殺したキラを倒し
ニアを越え誰よりも強くなってやる!
それがLのやり方や神の教えに背く事でも構わない、
自分の力だけ信じて生きて行く!
僕は様々な思い出が渦巻くワイミーズハウスを
一度も振りかえることはなく
夜の道を街に向けて歩いていった。

◇◇

それから、何年かが過ぎた。
俺の身の上には色々な事が起こった。
沢山の人間の死に関わった。
俺は神ではなく死神に会い、死のノートを操るキラとの
戦いに突入し、勝利と敗北を繰り返す。
俺はハウスを出て以来、2度とニアと交わらないような
道ばかり選んできたのに、またニアと会った。
銃を突きつけてもニアは平然としている。
俺が自分を殺さないと、または撃たれても自分は死なないと
確信しているのだろうか?
ニアは俺に背を向けている、その肩は以前とあまり
変わらない位小さい。
その双肩に世界の全ての重荷を背負っているかのようだ…。
俺は情報と引き換えに置いてきた写真を手に入れ、
キラを倒しまた会うことの約束をする。
俺達の存在はやはり運命なのだろうか?
ならば何故、こんなに捻じ曲がった絆なのだろう?
俺はひりつく顔の傷の痛みを無視してSPKを後にした…。

◇◇

2010年1月末
俺はSPKのハルからニアがキラと直接対決に挑む情報を得る。

「俺がやるしかないな…。」

俺は自分とニアの運命が今、わかった。
1人の人間が2つに別れて生まれた事
自体に意味があったのだ!

直接対決に不吉な予感がする…。
だが、俺が動くことで何かをつかめるはずだ!
俺はアジトを出た。

◇◇


マットに聞いていなかった…
何故、何年も音信不通だった
俺に手を貸してくれたのだろう?
彼もLも殺したキラを憎んでいたのだろうか?
理由はもう永遠にわからない。
彼は死んだ、ついいましがた、この異国で。
俺は夜の高速を北に向けトラックを走らせている。
道の脇に並んだライトが白い尾をつけたように流れていく、
魂が飛んでいくようだ。

Lに会わなければ俺たちはもっとまともな
普通の幸せをつかめたのだろうか?


いや…俺は自分で選んだことだ。
ニア…いまなら解る、お前にとってLになる事は
生きる事と同義語なんだな、前向きなお前は生きる事を
やめたりしないだろう。
あの息の詰まるようなキスは誘惑ではなく別れのキスだったのか…?

俺たちは別れ、そしてだからこそ、
キラを目前まで追い詰めている!もう少しだ!
L、ワイミーさんよ、…もしかして
ここまで読んでのプログラムだったのか?
これも、真相はもはや知ることも無い。
皆、安らかに…
俺は数年ぶりに神への祈りを口にした。



『ドクッツ』
廃屋の教会の前で
俺の心臓がうなり声を上げる…。
思ったとおり、裏があったのかキラの奴…
だが、これでニアは助かるだろう……

体中悲鳴を上げてるのに頭の中は
妙に澄んでいる…。
最後の最後に考える事はやっぱりニアの事かよ…
意識が遠のき、
目の前が金色の光に包まれる。
ニアと初めてくちづけた時のようだ、
あば……よ…ニ…。

◇◇

2010年1月28日
世界を震撼させた「キラ事件」解決。

◇◇

(ハル・ブロックの回想より。)

大切な人を失ってから、凍てついた世界。
だが2010年の1月、長い冬の終わりを向かえた。

その1年後、久しぶりに彼に会った。
初めて見る黒い服の彼はいつもよりシャープな印象を受ける。
背も少し伸びたのだろうか?
「今日は大人っぽいですね、ニア。」
「年齢的に大人なのは当たり前です。
普段が子供じみてると言いたいのでしょうか?」
「そんなつもりではないですわ。」
「リドナーあなたもしばらく見ないうちに大人びましたよ。」
「…年齢的に当たり前です…老けたと言う事でしょうか?」
「そんなつもりではありません、印象が穏やかになったと言いたかったのですが、
妙齢の女性の神経を逆なでしたようですね、謝っておきましょう。」
相変わらずだ…私は可笑しくなった。


こんな会話をかわしながらも私達の間には緩やかな空気がある。
死線を越えた者達だけが持つ、連帯感のようなものだろうか。
私はニアを車に迎え入れ、郊外へ向かった。
そういえば、彼はもうニアではなかった、私もリドナーではない、
でも、私達の間ではそのほうがしっくりする。
私達、数人だけの秘密の呼称だった。

車から降り、細い道を少し歩く。
小さな墓地にたどりついた。
「老けていけるというのは幸せな事ですね、
生きている証ですから…… 彼のおかげですね。」


「そうですね、彼がいなければ私達は今、ここにはいないでしょう。」
墓碑名の名前は『ミハエル・ケール』。
メロの死後、わかった名前だった。
ニアは淡々と花とチョコレートをそなえる、儀礼的に見えるが、
出不精の彼が追悼の黒に身を包み、銀のこうべを垂れ祈りを捧げているのだ、
いかにニアにとってメロが大事な人間であったのかがわかる…。

そこにいたのは短い時間だった、
私達はまた来た道を歩き出す。
私は以前から考えていたことを口にだした、
「ニア、死神は天国も地獄もないと言っていましたが、
あなたはどうお考えですか?」
「それは、リドナー、あなたの問題であり、私の問題ではありません、
あなたが自身が考え、好きな答えを選べばよいのです。」


「では、私は……天国はあると考えます。メロは罪を償って、
いつか天上に行けるといい…。
私は彼を初めて見た時、宗教画の天使のようだと思ったのです…
おかしいですね、あんなに乱暴な人だったのに。」
リアリストなニアは私の話を笑うかと思ったのに…

「私もあなたと同じです、初めて真近でメロを見た時、
金の髪が揺れて、黄金の天使かと思いました。」
ニアは雪解け道を音を立て歩きながら語る…
「もう春ですね。」
「ええ…ニア…春です。」
冷たい中にも生命の息吹がする風が通り抜ける…
そしてニアは小さくつぶやいた。

「…彼は私が生まれて初めて見た、希望の光だったんですよ。」



END




たしかラストあたりのメロの激昴から思いついた話なので
そこが一番書きたかったわけなんですが、いざ書いてみると
イチャイチャシーンが無いので、さみしかったですよ。
ワイミーズ黒にしてすいません。
最初に原作読んで感じた印象に忠実に書いてみました。
メロ・切れやすい。ニア・不思議な子。
メロがここまでニアを意識し反目するのは何かあったんだろう?

ワタリ・Lの後継者を
育てるために子供を集めるって人道的にどうよ?
L・あまりニアやメロと深い接触はなさそう。
マット、リンダ脇役…(ファンの人すいません。)
孤児だけ集めて天才が何人も集まるのも不自然なので
任意の子供が集まる教育施設なのではないかと?
キャラの過去はあえて考えない、そのほうが凄みがあるから。

ロジャー書いててワクワクしましたよ、でも13巻の子供嫌いは
愚痴のようなものだと思っています。

自分的にはハッピーエンドなんですが、いかがでしょう?…

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2008冬・追記

サイト移行のため、ブログから移す作業中に色々拙い文章が目に飛び込んできました。
今更ながら書き直そうとしたのですが、
なんだか…これはこれで残そうか…という気になりました。

初めて長編同人SSを書いた、荒々しく幼いですが奔流のごとき思い入れが情熱が
原文にはある気がします。
記名のブログやサイトにして創作物を公開しようという気になったのも
このお話があったからですし、完成度抜きにして
とても大事なお話だなと格納作業をしながらあらためて思いました。

読んでくださった方々全てに感謝です!ありがとうございました。