僕は眠れないでまんじりとしていた。

どうしてニアに…ニアなんかにキスしてしまったんだろう?
僕はニアなんか好きじゃない…むしろ疎ましいはずなのに…
あの時は礼拝堂を出た後だったせいか、ニアのふわふわした髪の毛が
まるで宗教画の天使のように見えて…。
そして、ニアの瞳を見つめていると、なんだか、宙に浮いたような気分になって
気がついたらキスをしていた…。
誰かに見られてたら困る、どうしよう!?
ここワイミーズハウスでは各自の出生は秘密になっている、経歴も本名もだ
もちろん僕のメロという名も通称だ。
各自で自分の秘密を守りとおせるかというのもLの後継者として
重要な要素と判断される。
「信用できるのは自分だけ」という事を幼い頃から叩き込まれるわけだ。
油断や、さみしさから自分の本名を漏らしてしまう子供もいるが、
だからといって放逐になるわけではない、元々ここに来れるのは皆、
優秀な子供ばかりだ、それぞれの才能を引き出す教育を引き続き受けられる、

ただLの後継者の資格を失うだけだ。

そして、優秀な学友としてLの後継者を伸ばす土壌となる。
人的環境は良いほどいい…
それはそれで、悪くない人生かもしれないが、僕はそんなかませ犬のような
生き方はまっぴらごめんだ。

誰か特定の人間と仲良くしすぎると教師達にマークされるので
それは避けたかった。
すぐあの場を離れれば良かったんだ。なのにニアが……
なぜニアは僕を抱きしめて離そうとしなかったんだろう?
あの冷淡で人を寄せ付けないニアが…。

相部屋のドアが開く音がかすかに聞こえた。
誰かトイレから帰ってきたんだろう…と思ったが、眠れず起きている間
部屋から出て行く者の気配はなかったはずだ。
「?」抜き打ちの見回りだろうか?僕が暗闇の中息を潜めると
4人のベッドを仕切っているカーテンがサッと開かれ…
小さな人影が僕のベッドに入ってきた。
そして、壁際に僕を追いやると
そのままコロンとベッドに横たわり寝息を立てはじまる!
僕は、まぬけな下級生が寝ぼけて部屋とベッドを間違えたのだと思い
「おい、バカ!起きろよ」と耳元でささやいた
ーーーーーー!!僕は昼間よりもビックリした。暗闇の中触れる
柔らかい髪、くちづけと同じ甘い吐息…
僕の横でベッドを占拠しているのは…ニアだった!
僕はもう、すっかり目が覚めて、ベッドのカーテンを少し開き
月明かりを入れる。
白い月の光がこうこう白銀の少年を照らし出す。間違いなくニアだ。
起こそうと思って揺すったが反応はない。
あきらめて、僕はニアの横に一緒に眠る事にした。
腕を頭の後ろに組んで、僕はこの状況を落ち着いて推理してみる事にした。
ニアは僕が教師にマークされ、放校されるよう陥れようとしている?
その考えは2秒位で打ち消した。僕がニアを陥れるならいざしらず
(自分でいうのもなんだが…)
ニアが僕の存在を消したがる必要性はない。なぜならそんな事をしなくても
彼は常に1番だからだ。 成績もLとの関係も…。
そうなると後は単純な理由しか思いつかない…

こいつ……僕になついた?
昼間のキスで??

ニアが寝返りを打って体を僕のほうに向けた。
毛布がずりおちた、僕は手を回して肩にかけた。
僕の腕が指がニアの体に触れる…遊戯室の時と同じ体の温かさがそこにある。
『黙ってると可愛いな…』
僕も体を横向きにしてニアと向き合うようにして、彼の顔をじっと見つめた。
すやすやと寝息をたてながら銀色の髪がかすかに揺れる。
ニアの髪の毛を見ているうちに目の前に銀色のパウダーがキラキラと
舞っているような気分になる。
それは僕には初めての感情だった。いとおしい?癒される?
上手い言葉が見つからない。

ただ、落ち着いた気分になれた…胸が暖かくなるようなそんな感情だった。
僕は気分がやわらいで、そのまま眠りに落ちた…

朝、目が覚めると隣には誰もいなかったので、なんて夢をみたんだか!と
うろたえたが、枕に残った銀色の髪が現実であることを物語っていた。

その日から、ニアは繰り返し、夜、僕の元を訪れるようになった。
何も言わず僕のベッドに潜り込み、朝、いつの間にか帰っていく。
昼間、すれ違う事が会っても相変わらずの僕には無関心の態度だった。
僕も余計な事はいわず昼間は彼を素通りし
夜には無言でベッドを半分あけ、向かえてやった。
ニアがワイミーズハウスに来たのは数年前、その前はどこでどんな暮らしを
していたのか、故郷も、出生もモチロン知らないが、
ここに来る子供は訳ありの人間が多いのは推してしるべしだ。

ニアはきっとさみしいのだろう、頭脳も精神力も飛びぬけているが
反面、非常に幼いメンタリティを残している。
僕を兄や家族のように思い、慕ってるのかと思うとほおっておけなかった。
高慢で不遜なニア、そんなニアが僕にすがって来る。
そしてそれを受け入れてやるという事実は僕をとても愉快な気分にした。
僕は自分がとても器量の大きな人間になった気がする、
空を大きな翼で羽ばたいてるような爽快さだ、
そして、もっとニアに優しくしてやろうと言う気持ちになり、
寝ているニアの巻き毛を軽く指で梳いた。

それから何ヶ月かがたった。もう季節は真冬を迎えていた。
ニアは週に1,2度の頻度で訪れる。
僕達の逢瀬は幸い誰にも見つかってないようだ。
ニアの部屋は3つ先なので、部屋を出るとき、廊下、僕の部屋に来る時に
舎監やルームメイトに見つかる確率は高いはずなのだが…
まったくニアは要領が良かった。 と言うより要領がニアに味方している
ような気さえする時もある…
そして、いつも音もなくドアを開けいつものように僕のベッドに無言ですべりこむ、
最初の日から変わってない。
変わったのはベッドを共にする(この言い方はやや語弊があるが…)回数が
重なるごとに外の寒さが増すごとに僕とニアの距離は接近した。
初めのうちは頭ひとつ隔てた距離、そのうち僕の長い髪の先がニアにかかる程に…
今はニアの吐息が熱い位、寄り添って眠るのだった。


その日は、この冬一番の寒さだった、外は雪が降っている吹雪といっても
いいくらいだ。 暖房が入っていても壁際からシンシンと寒さが襲ってくる、
時計はもう2時を越えていた。
 『今夜はもう来ないだろうか…?』
僕は抱え込んだ本とノートを閉じ、読書用のライトを消した。
……いつの間にか…僕はニアが来るのを気にかけている?
いや、ニアが来るのを待っているのか?
さみしいのはニアの方なのに、僕はそれを慰めてやってるだけなのに…
暗闇の中ゴウゴウと音を立てる吹雪の音を聞いていると
世界で1人になったような気がして僕は体の内側から
寒々として急に不安になった……。
なにが不安なのかわからない!ただ足元が崩れるような恐怖感だった。

そこへ、かすかな衣ずれの音がしてカーテンがあき
見慣れたシルエットが浮かぶ。
ニア!
ニアは僕の脇へいつものように横になろうとした……が、
僕は身をおこしニアに手を伸ばした
ぬくもりを求めあうのは人間の本能だろう。
僕はニアの体をだきしめたままシーツに倒した、ニアも拒否する事はなく
僕の体を抱き返す…
その白い雪を思わせる風貌に反してニアの体はとても温かかった。
躯体は華奢だが柔らかく実在感がある。
僕はほっとした。
わけのわからない不安に引きずられそうな淵から帰ってこれた。
僕はニアの髪にほお擦りし背中を撫で回した、
ニアも僕の背に腕を伸ばし抱きしめて、僕の髪をなでようとするが
届かず首元を撫ですさってくる。僕はくすぐったくて笑いが出そうになる。
僕らはその夜は抱き合ったまま眠った。

突然の恐怖はどこかへ消えた、そしてニアと過ごすようになってから
僕はあの胸の中の野獣がなりを潜めてるのに気がついた…。


それから、春がめぐり復活祭を迎える頃、僕とニアに個室が与えられた。
級友たちは皆、羨望のまなざしを向ける。
個室が与えられるのは年齢には関係ない、成績優秀でさらに伸びると
認められた人間にのみ開放される勉学に適したスペースだ。
本を置くスペースはたっぷりあるし、ハイスペックのパソコンも完備され
シャワールームにミニ冷蔵庫もある!これで夏もチョコが溶けずにすむな!
僕は上機嫌だった。
これはロジャーというよりワイミー氏やLの采配なのだろう、
僕は彼らに後継者候補として完全に認められたと言う事だろう。
新しい部屋で解放感と達成感でいっぱいの僕は青空の広がる窓を全開にし
昼間からシャワーを浴び、腰にタオルを巻いただけで足を天井にむけて
ベッドに寝転がった。
1人部屋のベッドは前より広かった。 これで2人でも狭くないな…
僕は夜が来るのが楽しみだった。
個室ならニアと遠慮なく会話が出来る…
僕達はもう何十回も寄り添って眠っているのに、
数ヶ月も言葉をかわしていないのだった。
今日でその不自然な関係からもおさらばだった。
ニアの部屋は僕の真下だ。
ニアはいつ僕の部屋にくるだろう、今日だろうか?明日だろうか?今夜だといい…
「早く聞きたいな、あの憎まれ口…」
時が過ぎるのを楽しみに、僕は濡れた髪を乾かしながらイースターの
チョコエッグをかじった。

◇◇

いらいらする…!!

イライラするイライラする!!!!

今、誰か僕に触れたら僕は静電気を発しスタンガンのように衝撃を与えるだろう。!
それ位、僕はギラついていた。

ニアが来ない!!僕の所に来ない!!!部屋を移った当日も、次の日も、その次の日も
あいつは姿を見せなかった。もう20日になる!
理由は思い当たる事がある。今度、僕らの部屋は階が変わった。
ニアの部屋から僕の部屋に来るまでに舎監の部屋の前を通らねばならないし、
階段には監視カメラもついていた。以前より、
ずっと密会が見つかる危険性が高まったのだ。
だから?だから来ないのか?なんてヤツだ!保身のため、あっさり関係を捨てるのか!?
僕を振り回して動揺させて、あんなにすがり付いてきたくせに!!!!
僕に会うのに面倒が増えたから、他の手頃なヤツの寝床に潜り込んでるのだろうか?
そう考えただけで、腹がたってしょうがない!はらわたを破って今にもあの野獣が
久々に僕を突き動かしそうだ!
級友のマットやリンダが午後のお茶に誘ってきたが断った、彼らはあっさり「またね」と
去っていく、ここの連中は皆、頭が良い。彼らは僕が荒れてるのをすぐに察し
ほっておいてくれる、だから僕も上手くやれる。
そう、僕が悪いんじゃない!僕を怒らせる奴らが悪いんだ!!ニアが悪いんだ!
部屋に戻って好きなチョコを食べて落ち着こう…理論上はチョコのカフェインで
より興奮するはずだが、知るか!!!
モニター室の前を大股で通ると窓の向こうにニアが見えた。教官と2人
複数のモニターを見て情報を処理するトレーニングだ、普通の生徒は4,5台が
せいぜいなのだが、ニアは10台以上のモニターに向かっている。
チェックする教官の顔を見るだけで、いかに確実に正解をはじきだしているかわかる…
ワイミーズが誇る、天才少年……。
彼の目は一身にモニターを見つめている、脳細胞がフル回転してるのが聞こえて
きそうだ。 僕はいつもベッドに潜り込んでくる少年と
今、ここで超常的な才覚を発揮してる無表情な少年が同じ人物とは、思えなくなった。
一緒に眠った暖かなニア…あれは幻か夢のような気さえする。

僕は怒りより、なんとも嫌な気分になって、その場から立ち去ろうとした。
すると、完全に集中していたはずのニアがこちらに視線を向けた。
僕とニアは窓越しに目が合った。
ニアの目はさみしそうな、なつかしそうな色がした。
そして、ニアはすぐ顔を戻す。

僕は動悸で苦しくなった!!
 
1瞬の事なのに、なにも会話はしていないのに
僕にはニアの言いたい事がわかった。
『会いたい』   と。

◇◇

僕はその夜、自分の部屋の窓を開けた。
「L」の座がかかっているのだし、保身は当然の事だった。ニアだけを責めて
僕は男らしくなかった。
僕のほうから会いに行けばいい、もちろん誰にも見つからずに!
僕は夜の空にロープを放り投げた。
端は動かないようベッドの足にくくりつけてある。
ロープを伝って1階下のニアの窓に行く。
危険はまったく感じない!僕はこういう軽業は大の得意なのだ。
壁づたいに降りていく、ニアは起きているだろうか?
誰かの部屋に行ってないだろうか?
いや、そんなはずはない、ニアにとって特別なのは僕だけだ!
だって、あんなに僕らは通じあった。
心が通じ合うなんてお話に中だけだと思ってたのに…。

遠い場所で生まれた2人が、今、同じ場所に暮らし、同じ心を持つ
これはきっと運命なのだ。僕らが似ているのも、僕がニアの事ばかり考えて
しまうのも、ニアといると暖かくなるのも、僕らの持つ宿命なんだ。

ニアに会いたい、会いたい!!会いたい!!!

窓の張りに足をつけた、カーテンは閉じていない、
ニアはベッドに横になっているのが見える…軽く窓ガラスを叩き合図をしようとした……。
その間もなく、ニアが飛び起きた!やはり僕らは通じ合ってるとしか思えない!
ニアが窓際に走ってきた。うれしいことにLのパズルを奪い返す時より
もっと早いスピードで!
「メロ、ようこそ。」
窓をあけニアが僕に言った。ニアが僕の名を呼ぶのは初めてじゃないか?
僕は窓から飛びつくようにニアに抱きついた。
小さなニアの体は僕を受け止めれず2人で床に転がる、
僕はもう1度、名前を呼んでもらおうと思ったのに、自分の唇でニアの口を
ふさいでしまった。

「ん、ん……。」

ニアが軽く喘ぐ、僕はさらにニアの口の中に侵入し思う存分、ニアの甘い声を味わう。
2人して裏になったり表になったりクルクルと体を回転させ、床の上を転がりキスをした。
そのうち、2人の間にある衣服が邪魔な気がして彼のパジャマをはぎとり
僕も全てを脱ぎ捨てた。
2人で肌を合わせて夢中で抱き合う。
「バカやろう…僕に会わなくて平気だったのかよ…」
「会いたかった…会いたかったです…メロ…。あ…ん。」
ニアの肌はしなやかでうるおいに満ち僕の肌に吸い付くように絡んでくる、
柔らかさの中にも弾力があり、僕はその体に自分の体をぶつけるようにして
感触を飽きる事なく楽しむ。
手でニアの頬、首、背中を撫で回し、肩甲骨の周りに天使の羽根がないか確かめた。
ニアがどこかに飛んで行ってしまっては嫌だ。
ずっとずっと僕の腕の中にいて欲しい。
翼はないようで安心してまたキスをする、ニアもキスを返す。
僕らは折り重なって、2人が混ざってしまえとばかりに体をくっつけて揺すりあった。
滑るほど汗が出て、僕らが揺れる速度を速めた、部屋の床も世界中が揺れる!
やがて、僕の中心がニアとの体の間で熱い、白い情熱をほとばしった、
「くぅ…ああああん」切ない声をあげ、
ニアも僕と同じように悦びを吐き出し、快感に2人で震えた…

僕は荒い息を吐きながら、
この行為が大人の男女がするとされる性交に準ずることだと、やっと気づいた。
SEXというのは甘く美しく誘惑的で、どこか猥雑な匂いがするものだという
印象だったので不思議な気がした…。

僕とニアの行為はあまりに自然で素直で2人には当然のような気がしたからだ。
僕は家族でも兄弟でもない恋人としてニアを求めている事に気づいた…

同性同士のそれは神の教えに背くことだけれど…。

僕は体を折り曲げてまだ喘いでいるニアを両手で抱えて抱き上げる
そしてベッドまで連れて行き体を横たえた。
ニアは潤んだ目と全身が上気してうす桃色になった肌を僕にさらした。
僕はもう14歳をすぎ大人に近づいていたが彼は年下で年齢よりも小柄で幼い、
僕の胸に罪悪感が湧いてくる…。
でも、僕はまだまだ足りなかった…僕もベッドに登りニアの足元に座る。
「ニア…僕は…おまえと1つになりたい…意味わかるか?」
ニアは薄く唇をあけ…まだ整ってない呼吸の中、つぶやく
「いいです…メロ……来てください…。」



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