季節は夏を迎えた。特殊教育施設である、
ここワイミーズハウスにも短いが夏季休暇はある。
訳ありの子供が多いとはいうものの、なにかしら身を寄せる場所や
誘いはある者のほうが多いようで、
帰省組が戻ってくるまで院内は普段より閑散としている。

僕はいつもこの時期は荒れているのだが…、この夏は違った。
今年はニアと一緒だから…。
人目が少ないぶんニアとも頻繁に行き会うことが出来て非常に満足だ。
最初の大ゲンカと仲直りをしたあの夜から、
僕らの仲は一層親密になり、穏やかなものとなっていった。
ニアが僕を運命の相手だと思ってくれていた。
僕と同じ事を感じていた!
僕たちは2人で一つ… !
それはたとえ様もない幸福感をもたらし、僕を満たしてくれる。
自分でも現金に思うほど、精神的に安定した。
不安定だった気分のほうが嘘のようで、友人たちとも前どおり、
いや、前以上に仲良く、楽しい日々を過ごしバケーションを迎えた。

後はワイミーズハウス卒業後の事だけだ…。
青く広がる夏空に入道雲の浮かぶ暑い昼下がり、僕は木陰で寝そべりながら
分厚い本を読み漁っていた、休暇だからって勉強を休むわけにはいかない。
僕には目標があるのだから。
没頭する僕の背後から僕を呼ぶ、しわがれた声がする…。
ロジャーだった、またお説教?と反射的に身構えたが、特に見に覚えはない…
「熱心だな、メロ。」
ロジャーの声が優しい、僕は顔をあげた、意外そうな表情をしてるに違いない。
ロジャーは真上にある太陽をさけ木陰に入ってきて、
手紙を差し出した、ハウスに居残った僕にリンダやマット、他、何人かが
絵葉書やカードを送ってくれたのだ。
「あいつら、古風だなメールでいいのに。」
つい照れ隠しのような言葉が出てしまう。
「メロは友人が多いんだなあ。」
今日はどうしたんだろう?ロジャー?
「まあ、皆、気がいい奴らですから…午後は返事を書かなきゃだな。」
言っておいて、それは不可能な事をすぐ思いだした。
僕らのプライバシーは秘密だった…手紙はどれも差出先の住所はない…

一瞬空虚な気持ちになったが、ロジャーの言葉がそれを吹き飛ばした。
「最近のお前はとてもいいね、メロ。行動も落ち着いていて、
周りにいい影響をもたらしてる。」
驚いた!彼が僕をまっすぐに誉めてくれているなんて、初めてじゃないか?
「ワイミー氏にも報告しておいたよ。喜んでいるようだ…。」

胸が高鳴った!!ワイミー氏が僕を認めている…と、いう事はLも!?
僕の存在が、評価が彼らの中で高まっている!?

「ありがとうございます!」僕もまっすぐに礼を言った。
うれしい…今までの諸々の努力が実を結びつつあるんだ!
僕は興奮して叫びだしたくなったが、ぐっと押さえて
また、本に向かった。
「今日中にこれ全部、読み終えるよ!」
Lが認めてくれた、きっとここを出たらLの片腕として呼んでもらえる
憧れのLの後継者に僕は近づけるのだ!
ロジャーは無心に本に向かう僕に言った。

「最近のお前はとてもいいよメロ…。」

同じ事を繰り返すロジャーを僕は見上げる…、
真夏の作り出す木陰の緑があまりにも濃くて
ロジャーの表情はよく見えなかった。

◇◇


「どうして連れ出したか、わかるか?」
八月の終わり、僕はニアと施設の裏の林を連れ立って歩いている。

「ええ、メロ。今日は外でしたいのでしょう?  
痛っつたた!!なにするんですか!!」

僕はニアの丸い頬を思いっきり引っ張ってやった。
「そ、そ、そんな低俗な推理力でよくLを目指してるもんだなニア!」
赤くなって歯をむいて怒る僕に不服そうに理由を尋ねてきた。
「見せたいものがあるんだよ!それに…」
僕は遅れがちのニアの手を引っ張って握った。
「こういう事は…院内じゃできないだろ?」
ニアはうつむいて黙った、なんだよ照れてるのか。
僕らは手を繋いで小さな森の小径を進んでいく。
最初は手のひらを合わせ、
いつのまにか指を指の間を絡めるように握り合う。
外出するからパジャマは禁止!と言っておいたら
ニアは大きめの白いシャツと白いぶかぶかのチノパンを履いてきた。
3M離れれば、いつもと一緒じゃんか、つまらん。
ニアは身なりに本当に頓着が無いんだな、
せっかく可愛く生まれてきたのにもったいない。
僕は自分で稼ぐようになったらミュージシャンみたいな派手な格好が
したいな、ニアにはトラッドでノーブルな服が似合うだろう。
ここを僕が出たら買って送ってやろうか?
いや、僕がいない所でニアがめかしこんだら、
他の男や女にとられるかもしれない、
コイツはいつまでも風変わりなままでいいや。
そんな事を考えながら、2人で外を歩く、これは初めてのことだ。
つきあって半年になるのにまだまだ2人の
初めてはいっぱいあるのがうれしかった。
ニアの靴音を聞くのも初めてだ。
なんだか「テコテコ」って音がしておかしい。

途中でもちろんニアはもう帰りましょうとごねだしたが、
僕は無視して緑の茂みの奥に引っ張っていく。
急に視界が開ける…そこは小さな平地になり妖精が降り立つような
泉が冷たく青い水をたたえている。
(実際には湧き水程度の大きさなのだが、僕的には泉。)
「ニア、あひるのおもちゃ持ってきたか?」
「はい、はい!!メロ!」
ニアは靴と靴下とボトムを脱ぎ、泉に足をつけて
鞄につめてきた、
風呂で遊ぶ沢山のあひるのビニール人形を泉に浮かべる、
天然のジオラマに興奮して大騒ぎだ。
僕は木の根元に腰をかけて、目を細めニアを見つめる…。
無邪気に人形と戯れるニアって…本当に本当に……

ばっかみてーーーーー!!!!

ニアの奇行には以前は呆れていたが、
最近は面白がれるようにもなった。
僕も大人になったものだとしみじみ感じる。
アホはほっておいて、僕はテキストを取り出して読む。
時々水音とニアのはしゃぐ声がする、水しぶきが夏の太陽を映し
きらめく、僕は14歳にして運命の相手にめぐり合え、友人にも
環境にも恵まれ、大いなる人生の目標に突き進んでいる…。
世界は美しく輝いている…
僕はなんだか、ふいに泣きたくなるような感情におそわれた。
幸せすぎて怖いってヤツだろうか…?

ニアが木苺を見つけて、泉で洗って持ってくる。
酸っぱいから、いらないと言うと
「好き嫌いですか、子供みたいですねメロ。」
「お前に子供扱いされる言われだけはない!」
とムキになって木苺をほうばった。
しまった!直前までチョコを食べていたので酸っぱさが倍増して
口の中に広がり、僕は悲痛に顔を歪めた。
ニアはおかしそうに声をたてて笑った。
憎ったらしいったら…。

昼ごはんは持ってきたサンドイッチとジンジャエールを飲んだ。
ニアは遊び疲れたのか、僕の膝枕で泉に浮いたアヒルを眺めている。
僕はまたテキストに目を移し、時折、彼の銀の髪をなでた。
風が吹きぬけ水面にさざなみを立て日の光を反射する…
「きれいな所ですね、メロ。」
「だろ、最近見つけたんだ、ハウスの誰も知らないんだぜ。」
「ここを私に見せたかったんですね。」
「ああ、今日お前の誕生日だろ?」

ニアが驚いたように起き上がった。
「そうでしたね、忘れてましたよ!すごいですメロ。」
ニアの腕が僕の首に絡まる。
「うれしいです、ありがとうメロ…。」
ニアがキスをしてきた、唇を優しく受け取り、
頬にキスを返した。
さっきのニアの推理を怒った手前、今日は健全に過ごさなくてわな、
それにはこれ以上のキスは危険だった。
ニアは白い素足を出したままで、とても危険だ。

僕が口を離すとニアはとても困ったような、足りないような顔をする…
そして僕の膝にまたがり…今度はもっと深いキスをしてくる、
僕も思わず舌を返し、お互いを丹念に味わい、
息ができなくなったころ、やっとニアが僕を離した…。

「しましょう……私が…したいです。」

「え、何を?何をしたいって。」
「意地悪しないでくださいメロ…。」
髪をクルリと指でいじる、
すねた顔が可愛いのでもっと苛めてやりたくなったが、
勘弁してやろう、今日はバースディなのだし…
僕はシャツのボタンをはずす、
パジャマよりボタンが小さく、はずしにくい事を発見する、
屋外の光にさらされたニアの肌は透き通るように白い事を発見する、
僕がつけるキスの刻印はニアの唇の色と同じ事を発見する、
指先で充分ニアを慣らすと彼は僕に向き合ったまま体を僕の膝に落とし、
すっかり勃ちあがってる僕をその体で受け止めようとする。

「痛くないか?無理するなよ?」
「ん……ン…平気です…あ…。」

深い深いため息とともに僕たちはひとつになり、目を合わす。
僕と似ている瞳、僕の半身…… ニア…。
ゆっくり体を動かすと、ニアが甘く震えてうめき僕を締め返してくる、
気持ちよさで目の前がスパークしそうだ。
「お前から…誘うの初めて…だな。」
「そうでしたか?…私…私はいつもメロを求めてましたよ…ハア」
僕の手はニアの前を愛撫する、
ニアの息が荒くなる。
さらに激しくすりあげる!
「ただ、メロから誘うほうが…いつも早かっただけです。…んん…あ」
ニアはもう快感の虜になったかのように、ろれつが回らない
「なるほど、確かにな!」
僕は行動力だけは誰にも負けないからな!
ニアの腰を両手でつかみ、上下に揺すってやる、
それだけでニアはもう達しそうだった。
「ハア……んんん!あ、き、気持ちいい、気持ちいいです…メロ…メロは?」
体をそっくり返らせニアが喘ぐ、白い体がすでに薄桃に染まっている。
綺麗だ、こんな綺麗な人間が僕のものなのか?
「いいよ、ニア!すごくいい、ニア…!!」
僕らは律動を繰り返し、揺れる…
ニアは振り落とされないよう僕にしがみつき、
僕は美しいニアが妖精にさらわれないように
きつく腕の中に抱きしめる。
誰もいない森の中、僕らの叫びが木霊になる位、夢中で僕らは溶け合った。

木々の隙間から赤い夕陽がこぼれてくる。
僕は昼間来た道をニアをおぶってワイミーズハウスに向かう。
「いわんこっちゃない、めったに外に出ないくせに、あんなに乱れて
体力使うから……。」
ニアは帰るころには眠りにおちてテコでも動かなかったからしょうがない…
まあ、こいつ位軽いもんだし…。
昼間のニアの嬉しそうな顔と引き換えならしょうがないか、
首元で寝息をたてていたニアが、顔をすりつけながらつぶやく
「……すき ですよメロ…。」
僕は首筋が真っ赤になるのを感じた、体も首もくすぐったくて
思わずニアをふるい落とすところだった!
誰もいなくてよかった、僕の顔もきっと夕陽より赤いだろう。
むにゃむにゃとニアの口が動く……寝ぼけてるのかよ…。
僕らは足の付け根のほくろまで知ってる仲なのに…
たった一言で、なに照れてるんだか…。

僕らはこうしていつまでも新鮮に愛し合えるだろうか?
永遠にそれが続くといい…
ニアが寝てることをいいことに歯が浮くようなセリフを僕も言ってみる。

「また来年もこような…。」
「好きだよ…愛してる…。」
「綺麗なものや楽しいものを見つけたら、
これからも真っ先にお前に見せるからな…。」

ハウスの鐘が遠くで響く
短い英国の夏はもう終わりかけ、夕暮れは肌寒さを感じるが
僕はニアのぬくもりを背にうけ心も体も暖かく家路を急いだ。


今から考えると、ニアはあの時起きていたのかもしれない、
だが、返事は出来なかったのだろう。
彼はもう気づいていたんだろう…
僕ら2人で向かえる「来年の夏」など二度と来ないという事を…。



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